PTAの最上位団体「日P」の活動資金は各校のPTA会費から
公益社団法人日本PTA全国協議会という組織をご存じだろうか。ひと言で例えるならば、「各小・中学校にあるPTAの最上位団体」だ。
多くの保護者が関わるのは子どもが通う学校のPTAのみだが、各校のPTAは、「PTA連絡協議会」「PTA連合会」「PTA協議会」(以下、P連)などの名称で、市区町村郡→都道府県→全国と連なるケースが多い。市区町村郡のP連の上部団体として「都道府県P連」、「都道府県P連」を束ねる最上位団体として日Pが存在する。
日Pには「ブロックPTA協議会」という下部組織があり、「都道府県P連」は北海道、東北、東京、関東、東海北陸、近畿、中国、四国、九州の9ブロックのいずれかに所属することになる。ちなみに、政令指定都市は都道府県のP連には属さない形で日Pの傘下に入る形になるのが通例で、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市などが当てはまる。
日Pの活動資金の一部は、各校のPTAに加入する保護者が納めるPTA会費から出ていることも、実はあまり知られていない。
各校のPTAが「市区町村郡のP連」に加入している場合、P連の運営資金(分担金)として保護者から収められるPTA会費の一部を支払う仕組みになっている(1児童もしくは1世帯につき年額10円単位〜100円単位)。さらに、「市区町村郡のP連」が「都道府県P連」に加入している場合、収められた分担金の一部(年額10円単位が多い)を都道府県P連に、都道府県P連が日Pに加入している場合は、子ども1人当たり10円の会費が日Pに納められている。
2023年9月現在、日Pの正会員は、各都道府県や政令指定都市の63のP連で、会員規模は約750万人。少なくとも7500万円という金額が日Pに集まっていることになる。
2023年2月に「東京都小学校PTA協議会」が日Pを退会
日Pは、1952年にPTAの全国組織として発足。その後1985年に「社団法人」格を取得したが、2008年の公益法人制度改革により、2013年4月「公益社団法人」に移行した。
本部役員は、会長1名、副会長4名、専務理事1名、常務理事1名、理事8名、監事3名の計18名(2023年10月現在)で、その多くが全国の都道府県P連等で要職を務めたOBで占められている。日Pのホームページによると、教育を本旨とする民主的団体として、下記を掲げて活動している。
・青少年の健全育成及び福祉増進に資する情報資料の収集及び提供、広報活動
・青少年の国内交流及び国際交流 など
しかしその運営については、かねて日Pと関わる各地のP連から疑問や課題を指摘する声が上がり続けている。
2023年3月、東京都の小学校PTAを束ねる東京都小学校PTA協議会は、「日Pは日本PTA全国研究大会(以下、全国大会)の運営に力点を置き、PTAの全国組織としてP連の活動を下支えしているように感じられない。いったんつながりを切ることで、自分たちの活動をできるだけシンプルにしたい」という理由から、日Pを退会。都道府県P連が日Pを退会するのは全国で初めてで、大きな話題となった。
ガバナンスの不在と脆弱な事務局体制が課題
日Pの、何が問題なのか。
「最大の問題点は、ガバナンスの不在にあると思います」と言うのは、関西地方でP連会長を務めた経験のある大森勢津氏だ。
「P連会長として日Pと関わる中で、全国のPTA組織としてPTA会員の意見を広く吸い上げるべき存在であるはずなのに、その役割を果たせていないことや、全国大会の運営方法に疑問を感じて改善を申し出ました。しかし、リアクションがありませんでした。声を上げても、理事会で議題として話し合われているかどうかわからず、話し合われたとしてもその回答がない。適切な判断を下し、組織をよくしていくために不可欠な意思決定プロセスが不透明なところが、大きな課題だと感じました」
組織を持続的に発展させていくためには、各事業における活動はもちろん重要だが、それを支え、人やお金、契約などの管理、組織の組成などを行う事務局機能は同じように大切だ。大森氏は続ける。
「理由は定かではありませんが、当時、日Pには『事務局長』という肩書の方が不在でした。日Pは公益社団法人に移行しましたが、『公益』を維持するためには煩雑な事務手続きが必要です。しかし実務に精通した事務局体制が確立していないため、全国の会員が求める事業を行うことよりも『公益社団法人』格の維持のほうに力点が置かれているように見受けられました。PTAの全国組織として、『公益社団法人だから公益性のある必要な組織である』ではなく、『全国の会員が求める事業を行っているから必要な組織である』と説明できる必要があるのではないでしょうか」
100回以上の会議を経て開催される「全国大会」の問題点
日Pのメイン事業の1つと位置づけられているのが、全国大会の運営だ。
全国大会は、日P発足以来毎年1回、社会教育、家庭教育およびPTA活動の資質向上を目的に、8月下旬に2日間にわたって開催。日本中の小・中学校のPTA関係者(主にP連や各校PTAの会長を含めたPTA役員)が集まり、その参加人数は毎年数千人に上る。
参加費は、1人5000円。開催地は輪番制で、年ごとに変わる。ちなみに、2021年は福岡県北九州市、2022年は山形県、2023年は広島県で開催された(広島大会の参加者は約6800名)。以降、2024年は神奈川県川崎市、石川県、奈良県、熊本市と続く。
大会当日は、複数箇所用意された会場で、「全体会」では学識者らによる記念講演、「分科会」では学校教育、地域連携、防災教育などをテーマとした基調講演、実践発表、パネルディスカッションが行われる。ちなみに、2023年広島大会全体会の記念講演は、人工知能を研究する感性リサーチ・代表取締役の黒川伊保子氏が、2022年山形大会では指揮者の飯森範親氏が行った。
この大規模なイベントの企画・運営を行うのが開催地のP連関係者で、日Pの理事会を交えて実行委員会を結成。準備は、何と開催年の2年前から始まるという。
P連本部役員を務め、全国大会運営に携わった経験のある田中裕三氏は、こう話す。
「大会準備を始めるにあたり、500ページにもおよぶ大会マニュアルを渡され、そのマニュアルに沿って運営し『開催までに100回くらい会議をすることになる』と言われ驚きました。また、最初に『自由な発想で運営を進めてよい』と伝えられましたが、ふたを開けてみると大会スローガンやメインテーマなど、一つひとつすべて日P理事会に『上程』してお伺いをたてなければいけないということでした。個人的な意見ですが、私はこの『上程』という言葉に疑問を感じました。P連も日Pも、同じ子どもを持つ保護者の集まりなのに、不可解な上下関係があることが腑に落ちませんでした」と。
田中氏は続ける。
「さらに驚いたのは、大会当日のステージの設置や他県から来る人々のホテルや電車、バスの手配なども実行委員会がすべて引き受けるということでした。これらを取りまとめる旅行会社は、コンペで決めるとのこと。人を集めることにより、地域経済が活性化するという点では意味のあることだと思いますが、全国大会は、終了後の宴会や観光がセットになっているのが通例です。大会に来られる方々の旅費交通費、宴会代、観光代などは、どこから捻出されているのでしょうか」
「全国大会は、オンライン開催で十分なのではないか」
開催県や市からの補助金も合わせ、何千万円という運営資金により日Pの全国大会は開催されている。
「そもそもPTAは、子どもたちのたちのすこやかな成長を目的として活動するものです。『全国大会という“保護者が学ぶ機会”を提供することが子どもたちの成長につながる』という論理も理解できなくはないですが、開催のためにこれだけ高額の費用と手間をかけるのは、費用対効果としても非常に疑問を感じます」というのは、P連本部役員として全国大会運営に携わった経験のある梅原一浩氏だ。
「私が全国大会に関わった時期はコロナ禍で、まん延防止等重点措置期間、緊急事態宣言期間が繰り返されていました。子どもたちの学校行事が次々と中止や延期になりたくさんの制限が強いられる中、全国大会という名の下に他県から人を呼び込むことは好ましくないと考えた私は、大会の開催には反対し、開催にこだわるならばオンライン開催はどうかと提案しました。しかし、日P本部からは『行く側にも参加する権利がある』『対面開催がマスト』などの声が出て、実行委員会は紛糾しました」という。
最終的にこの年の全国大会は開催期間1日、対面とオンラインのハイブリッド形式で開催された。
「今後も全国大会を継続していくのなら、オンライン開催で十分ではないかと思います。PTAの活動は、多くの会員にその門戸を広げていくことが大切です。全国のPTA代表者だけが対面で集まるクローズドのスタイルは、運営側にとっても参加する側にとっても大きな負担です。オンライン開催にして、PTA会員なら誰もが参加できるスタイルに移行していくのが望ましいのではないでしょうか」
全国組織でしかできないことにリソースを集中できないか
繰り返しになるが、日Pは、小・中学校のPTAの全国組織だ。先の大森氏は言う。
「全国の会員がPTAの全国組織として日Pに期待するのは、給食の無償化、部活動地域移行に伴う予算追加、不登校、教員の働き方改革など教育予算の獲得と、これらに必要な法整備のために文部科学省に声を上げること。そしてその結果をフィードバックすること。これ以外にないのではないでしょうか。これまでの全国大会モデルを省力化・適正化し、全国組織でしかできないことにリソースを集中してほしいと思います」
コロナ禍を経て、社会環境や経済環境、人々のライフスタイルなどが大きく様変わりする中、各校のPTAでは、これまでの前例踏襲的、強制的な運営方法やあり方を見直し、省力化・適正化に向け進化を遂げていく機運が少しずつ高まってきている。
全国のPTAを束ねる日Pだからこそ、時代に即した運営を期待したいところであるが、2023年7月には金田淳前会長がハラスメントを理由に解職。この件をめぐり9月には、同日に金田淳前会長、前副会長で金田氏解職により新会長に就任した後藤豊郎新会長が記者会見し応酬するなど組織としてのほころびが目につく。
一連の流れを受け、東洋経済education×ICT編集部では2023年8月、日P宛に活動のビジョンや意義、全国大会の運営についての考え、ガバナンスのあり方、前会長解職の経緯などについて質問状を送り、メールによる回答を求めた。これに対し、日P後藤豊郎新会長が対面取材により回答する旨の返答を受け取った。
後編では、後藤豊郎新会長への取材記事をお届けする。
(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:砂肝大好き / PIXTA)