会員・非会員の区別をなくし、会費ゼロの“新生・都P”に
2022年6月――東京都の小学校PTAを束ねる「東京都小学校PTA協議会」(以下、都小P)は、22年度総会において、PTAの全国組織である「日本PTA全国協議会」(以下、日P)から23年3月末をもって退会する方針を決めた。その昔「1957年に日P退会後、1965年に復会」という歴史を経たうえで、都道府県や政令指定都市の都道府県PTA連合会・協議会(以下、P連)が全国組織を改めて退会するのは全国で初めてで、さまざまなメディアで大きな話題となった。
当時、都小Pに加入していた都内の公立小学校PTAは約190校で、会員は約9万人。児童1人当たり20円の会費を集め、このうち児童1人当たり10円、総額約90万円を日Pに支出していた。
「退会のいちばんの理由は、『自分たちの活動をできるだけシンプルにしたい』ということです。これまで、『都小Pとして会員さんから会費をもらっているからには、都内の市区町村のP連や各校のPTA(以下、単P)のほうを向き、支えたい』という気持ちで活動を進めてきました。しかし、僕たちの背後にいる日Pは全国大会やブロック大会の運営のほうに力点を置き、残念ながら都小Pの背中を押してくれているようには感じられませんでした。そのため退会し、つながりをいったん切ることで運営がシンプルになり、より都内の市区町村P連や単Pのための活動に力を注げるのではないかと判断しました」と、岡部健作氏は言う。
都小Pは、23年3月末に日Pを正式に退会した。
かねて、公立小中一貫校から「同じサービスやツールを中学校PTAでも利用したい」という声が届いていたことから、対象を都内の全公立小学校 PTAと公立小中一貫校の中学校PTAに拡大し(中学校単体のPTAは対象外)、これまでの「一般社団法人 東京都小学校PTA協議会」から「一般社団法人 東京都PTA協議会」(以下、都P)に名称を変更。さらに、23年4月から、会員・非会員の区別をなくし「会費なし」に。「PTA活動の担い手であるP連や単Pの支援」をスローガンに活動をスタートさせた。文字どおり“新生・都P”の誕生だ。
コロナを機に都内全小学校にメールアドレスを提供
都Pのこのような改革の発端は、20年の「コロナ休校」だったという。
くしくもこの年から都小P会長に就任した岡部氏は、「全国の皆さんと同様、これまでやってきた研修会や勉強会などの活動ができるのかできないのか、まったくメドが立たない状態になりました。『そもそも自分たちは何をすべき団体なのか』『市区町村のP連や単Pは、今何を求めているのか』と。そこで原点に立ち返って事業計画を一新しようと、役員、理事を交えて議論を始めました」と言う。
ちなみに、都Pの役員は、会長の岡部氏以下副会長5名、常務理事1名、監事2名と計9名。理事は20名(23年4月現在)で、大半が都内小学校PTAのOB・OGで構成されている。現役のPTA役員が兼務するには負担が大きいことから、このようなメンバー構成だという。
対面の機会が限られ新しい生活様式が求められる中、都小Pでは「情報の集約・発信・共有」をビジョンに掲げた。その最初の取り組みとして、都内すべてのP連や単Pに、「学校名@ptatokyo.com」(P連は市区町村名)が入ったメールアドレスの提供を行った。
このメールアドレスは、都小Pのサービスを利用する際のユーザーアカウントとなり、都小Pからの情報メールを受け取れるほか、PTAの公式メールアドレスとしても送受信で利用可能だ。
「これまで、都小PからP連、単Pへの情報提供は、ホームページによる発信に加え、会員・非会員の区別なく全校のPTA宛てに『PTA東京かわら版』や広報誌など紙媒体を郵送していたのですが、役員さんがいつ学校に足を運ぶことができるかわからない状態になってしまったので、提供したメールアドレスを活用いただくことで、情報共有や発信のためのプラットフォームになりうるだろうと。都小Pとしてドメインを契約しているので利用は無料ですし、同じアドレスをPTAでずっと利用できるため、会長さんが変わっても経年でPTAのメールを管理できることもメリットだと思います」(岡部氏、以下同じ)
20年度から始めたこの取り組みは現在も継続しており、23年4月現在で都内約1300校のうち約300校のPTAで利用されているという。
“新生・都P”は「IT支援」と「運営支援」を2本の柱に
コロナ禍が続く21年から22年にかけては、新しくPTA役員になった保護者を対象に、オンラインによる情報交換会や、「Zoom会議のコツ」をテーマとしたミニセミナー、コロナ禍での活動事例を共有するオンランミーティングなどを開催。ここでも、会員・非会員の区別なく、都内の小学校PTA関係者であれば誰もが無料で参加できる形態を取った。
これらの会を通して参加者から聞かれたPTA運営の課題や困り事についての声を参考に、23年度より“新生・都P”が活動の肝として位置づけているのが、単PやP連の「IT支援」と「運営支援」だ。
IT支援については、前述のメールアドレス提供に加え、無料のユーザー登録をするだけで希望するP連や単Pに
・マイクロソフト「Office 365 E1」1ライセンスの付与(無料)
・「Google Workspace」ライセンスの付与(無料)
・Zoomライセンスプロプラン利用料を助成(申し込み期限あり)
・PTAでも契約できるWi-Fiルータープランを割引価格で提供
など
運営支援については、
・ 大塚商会、リコー、理想科学工業との交渉の結果、パソコン、印刷機などの任意団体であるPTAによるリース契約の案内
・ リコーリースのサービスである、PTA会費の口座振替・コンビニ決済サービスの紹介
などが可能になった。
「サービスの押し売りではなく、『必要なサービスを使いたいP連、単Pに自由に選んでいただく』というスタンスで、支援を行っていきたいと考えています」
また、都Pが契約者となり個人情報漏洩補償制度の取り扱いもスタート。メールの誤送信や個人情報の盗難・紛失などの情報漏洩やそのおそれに備えることができる(利用条件や申し込み期限あり)。
さらに、これまで開催してきたオンラインでのミーティングやセミナーに加え、PTA活動での悩みに対応するZoomによる「お悩み相談室」も不定期で開催していくという。上部団体に少なからず見られるPTA関連イベントへの“動員”も、いっさいない。
「これらの中で、『Office 365 E1』『Google Workspace』ライセンスの付与、Wi-Fiルータープランの割引価格による提供、Zoomライセンス利用補助のIT支援は、22年度までは、会員のPTA限定のサービスでした。しかし、20年から都内すべての単Pに向けてさまざまな支援を行ってきた中で、一部の会員さんから会費をいただき、会員さんのみにこれらのサービスの提供を継続するよりも都内すべてのPTAをサポートすることに大義があるのではないかと考えたのです。
議論を重ねた結果、『都小Pは、会員・非会員の枠を取り払い、都内すべての公立小PTAやP連にメリットを提供できる組織として新たなスタートを切ろう』と。23年4月より、都内すべての公立小学校のP連、単Pに利用いただけるようにしました」
P連、単Pとフラットな形でつながる
“新生・都P”では、会員・非会員の枠を取り払ったため、昨年度の場合は約90万円が計上されていた会費収入が今年度からゼロになるが、
「もともと会員数が少なく、都Pの総収入に占める会費収入の割合は約20%でした。会費収入がなくなることによる運営資金の不足分は、都Pの広報誌やホームページでの広告収入、保険事業を行う東京都小学校PTA協議会互助会からの助成金などにより補っていく予定です」という。
日P退会により、メディアなどでしばしば図示される、日P(最上位団体)を頂点とする都道府県P連(上部団体)→市区町村郡P連→単Pと重層的に広がるPTAの「ピラミッド型」の構造から抜け出した形になった都P。
しかし、「そもそも『自分たちは上部組織である』という意識はあまり持っていないんですよね。ただ、日Pからの退会により、僕たち都Pと都内のP連、単Pが、ピラミッドではなく、上も下もないフラットな形でつながる都道府県P連の新しいスタイルを提示できたのではないかとは思います」と、岡部氏は言う。
「イメージ的には、童話『おおきなかぶ』の物語の中で、みんなのいちばん後ろでかぶを抜こうとしているのが都Pかな、と。都Pの前にはP連、P連の前には単Pがいて、みんなで力を合わせてかぶを抜いて、出てきたかぶは、子どもたちの笑顔。いちばん後ろにいる都Pの僕たちから、かぶ(=子どもたちの笑顔)は見えないけれど、単Pからはよく見えるじゃないですか。そんな存在でありたいと思います」
大きく変わった運営方針や活動内容の周知に力を入れる
都Pの目下の課題は、大きく変わった運営方針や活動内容の周知だという。
「ホームページでの発信や『PTA東京かわら版』の郵送に加え、都Pの活動に興味を抱いてくれるP連や単Pに可能な範囲で直接つながり、市区町村の連合会に顔を出させていただいたりしながら詳細をお伝えしていくような動きをしていこうと思っています。
また、任意加入や個人情報取り扱いなどに関する都Pとしての考えも、今後ホームページ上で随時発信していく予定です」
「前例踏襲的」「義務感が強い」など、PTAと同様ネガティブなイメージが強いP連なだけに、「○○のP連が△△を退会」といったニュースは話題になりやすく、とかく対立構造があおられがちだが、岡部氏は「日Pからの退会は、『僕たちの活動をよりよくしていくためにどうするか』と考え抜いた結果出た結論の1つ。当たり前ですが、日Pとは会員としての関係が切れただけで、けんか別れをしたわけではありません。都の組織と全国組織としての関係はこれからも続いていきますし、ほかの都道府県P連の退会を助長するつもりもありません」と言う。
とはいえ、都Pの一連の改革は、これまでの都道府県P連のあり方や運営方法について改めて考えるきっかけになりうるのではないだろうか。“新生・都P”のこれからに注目していきたい。
(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:Graphs / PIXTA)