AIでなくなる職業と、新たに生まれる職業

クルマ、家電、コールセンター、ホテルの受付など、AIを活用した商品、サービスが次々と誕生している。その勢いはとどまることなく、今後はむしろ加速するといわれている。

一方、AIによって数年後にはなくなると予測されている職業がある。自分自身を「文系AI人材」と称するZOZOテクノロジーズの野口竜司氏は「AIでなくなる職業は、単純作業を繰り返す、工夫の余地がない仕事」と説明する。

野口竜司(のぐち・りゅうじ)
ZOZOテクノロジーズ VP of AI driven business
立命館大学政策科学部卒業。「文系AI人材」として、さまざまなAIプロジェクトを推進。AIビジネス推進や企業のAIネイティブ化に力を入れる。大学在学中に京都発ITベンチャーに参画。子会社社長や取締役として、レコメンド・ビッグデータ・AI・海外コマースなどの分野で新規事業を立ち上げ、その後ZOZOグループに。大企業やスタートアップ向けのAI研修やAI推進アドバイザリーも提供
(提供:野口氏)

逆に、AIの登場によって新たに生まれる職業があるという。「AIを作る仕事」と「AIを使う仕事」だ。

「AIは、ルール化やマニュアル化できる仕事が得意です。現段階では、感情やコンテクストを読み取ることは苦手で、マニュアル以上のことをやって付加価値を生み出すのは不得手です。例えば、接客業はすべてAIに置き換えられると思われがちですが、必ずしもそうではありません。ホテルや旅館の受付における予約業務はAIに置き換えられますが、気配りや心遣いといった工夫の余地があるおもてなしの部分は人間にしかできません。一口に接客といっても、仕事を分解してみると、AIが受け持つ業務には偏りが生じます」

「AIを作る仕事」とは、まさにAIエンジニアやデータサイエンティストといった理系のAI専門人材が活躍する分野。「AIを使う仕事」は、理系のAI専門人材がやる仕事以外のすべての仕事を指す。人の仕事をAIが補助したり、AIが人の仕事を補助あるいは拡張する、いわば「人間とAI」が「共働き」で行うさまざまな業務、職業だ。文系人材が広く活躍できる分野であり、今後すべての人にAIと共に働く力が求められるといっても過言ではないだろう。

これまでAI人材というと、「AIを作る」専門家に注目が集まりがちだった。しかし、今後AIが社会にどんどん浸透していくことを考えると、数でいっても「AIを使う」人材が相当数必要になる。実際、教育の分野においても「AIを作る」人材は増えているものの、「AIを使う」人材の育成は追いついていない。今、社会においても、AIを理解し、的確に使うことのできる人材が不足しているのだ。

AI社会で活躍するためのスキル習得4ステップ

野口氏は、AIを使いこなす人材には、理系AI人材が学ぶアルゴリズムやプログラミングの知識がなくても構わないという。ただ、「AIを使いこなすための『4階建て構造』のスキルを順序よく身に付けることが大事」と話す。

まず、1階部分は基礎知識だ。英語でいえば英単語のようなもので、AIの基礎用語、分類、仕組みなど、AIを知るために欠かせない知識を必要な順番で、できれば小学校低学年のうちから少しずつ身に付けていくのがいいという。

2階部分は、AI構築の現場を体感すること。AIといっても機能別に、見て認識する「識別系」、考えて予測する「予測系」、会話する「会話系」、身体(物体)を動かす「実行系」の4タイプに分かれていて、まったく異なるアプローチで作られている。それぞれのタイプのAIが作られる現場を、社会科見学のような形で実際に見て理解しておく必要がある。

「動画サイトで、おすすめ動画が表示されたら予測系AI、学校行事の写真の中から自分の写真を選んでくれるサービスなら識別系AIといったように、何となく便利だなと思っているものが、AIによって作られているのだと見抜く力があるといい。これはAIを使いこなす人材の資質として大切な探究心や好奇心を高めることにもつながります」

3階部分は、AIをどう生かすのかを企画する力を磨くこと。実際にAIが導入できるかという実現性も大事だが、AI導入後にどれだけ世の中がよりよい方向に変わるのか、その変化量が大きいものに着目して自由に発想することが重要だという。

野口氏は、高校や企業でAI人材をテーマにした研修、ワークショップなどを行っているが「社会人よりも高校生のほうが企画の質が高い。大人と違って変化量の大きな課題解決をしようと、純粋無垢なアイデアを出してきます。それは本当に社会に大きな変革をもたらす原石のようなもの」と話す。

AI企画を考える際には、5W1Hのフレームワークを使う。WHO(誰のためのAIか)、WHY(なぜAIが必要なのか)、WHICH(どのタイプのAIが適しているのか)、WHAT(何ができて、何が解決するのか)、HOW(AIと人がどう分業するのか)、WHEN(いつまでにどう準備するのか)だ。端的に言えば、課題とAIにできることをマッチングさせることになるが、AIの知識がなければ正しいマッチングはできない。1〜3階建て構造部分の学びをおろそかにできない理由は、ここにある。

このフレームワークを使うことで、「企画の解像度」も上げられるという。

「解像度が高くなればなるほど、企画に関わる関係者への理解が進むのはもちろん、リスクや不確実性が明らかになって再現性も高まり、具体的なAI活用の道が開けます」

最後の4階部分は、AIのタイプ別にたくさんの事例に触れることだ。社会のどの場所で、どんなAIが使われているのかをとことん知ることで、これまでの3つのステップの理解をさらに深めることにもつながる。

専門領域×AIを新しい学びの形に

こうしたAI教育を「中学生からやってほしい。やろうと思えば、小学生からでもできる」と野口氏は話す。

「AIに触れて、何となく中身を知っておくだけでいい。早ければ早いほどAIがわかるようになります。子どもたちの自由な発想を大切にして、限界をつくらず、楽しくAIを学ぶようしてください。さらに中学、高校では原理原則を学び、大学では理系だけでなく文系も必要な知識としてAIを学ぶべきだと考えています」

今後AIに関するスキルや知識は、どの業界においても組織やサービスをよくする原動力になっていくことだろう。だからといって、AIだけを学んでおけばいいというわけではない。さまざまな専門領域と掛け合わせることでAIを真に使いこなせるようになるという。

「例えば、経理のスペシャリストがいなければ、AIを経理分野でしっかり使いこなすことはできません。AIをより深く活用するためには、専門領域と掛け合わせた発案力が必要になるのです。そこでAI知識を横串にしつつ、さまざまな学部学科で垂直的に深掘りする学習をしてほしい。こうして専門領域×AIの教育を受けた人材が、AI教育を受けずに社会に出た先輩たちを押し上げる力にもなってほしいと思っています」

これだけAIが注目されていながらも、依然として社会にはAIを敵対視する風潮がある。確かにAIは万能ではない。精度は少しずつ上がりつつあるが、依然、苦手分野は残っている。かといって「だから、AIはダメなんだ」と突っぱねたり、「AIが暴走して、やがて人類を滅ぼすかもしれない」と敵対視したりすれば、永遠にAIをうまく使いこなすことはできない。

「AIのポテンシャルを信じて受け入れ、AIと仲良くなることが必要」と野口氏が話すとおり、そのためにもAIという相手と前向きに向き合い、知ることから始める学びが必要になる。

(注記のない写真はiStock)