AI研究者、東大教授・松尾豊が語る「生成AI」が教育業界に与えるインパクト 「変化の側に身を置くメンタリティー」が重要

「先生が教えやすくなる」など、多様なツールの可能性
――現在、第3次AIブームといわれていますが、話題のChatGPTはこれまでのAIと何が違うのでしょうか。
今回の第3次AIブームの源泉はディープラーニングです。顔認証や画像診断といった画像認識を中心に世の中に活用が広がりましたが、ChatGPTは言語を扱う技術ということで、今まで以上に影響範囲が広いといえます。
インターネットをはじめスマートフォンや自動車など、これまでの歴史で見てきたように、新しい技術が生まれてから使えるサービスとして一般に行き渡るまでには、相応の時間がかかるでしょう。しかし、確実に生成AIは世の中に浸透していくと考えています。

東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻 教授
専門は人工知能、ディープラーニング。日本ディープラーニング協会理事長、ソフトバンクグループ社外取締役、人工知能学会理事、情報処理学会理事、AI戦略会議座長、新しい資本主義実現会議有識者構成員
――文部科学省が2023年7月4日に「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しましたが、活用に抵抗感を持つ教員もいそうです。
最初は抵抗感を持つ人がいるのは当然ですが、先生方も将来的に生成AIを使わないという選択肢はないと思っている方が多いのではないでしょうか。技術がいずれ普及するのだとすると、それを使わないというのは「スマホを使いません」と言って徐々に生活に不便を来すことと近いのかもしれません。
もちろん、短期的には使い方に注意が必要です。例えば、リポートを書いたり、問題を解いたりするときに生成AIを使う児童生徒や学生も出てくるでしょうから、そのあたりのルールや問題の作り方などの議論は必要です。一方、長期的には生成AIを使って教育にどう活用していくのかを具体的に考えていくことが大切になってくると思います。
英語教育の分野ではすでにChatGPTを活用したサービスが始まっているほか、OpenAIがKhan Academyと共同開発したパイロットプログラムでは、深い理解を促すソクラテス型の対話教育が可能になっています。皆さんも実感していることだと思いますが、ChatGPTは知らないことがあれば、わかりやすく教えてくれます。小学生でもわかるようにと入力すれば、さらにわかりやすく教えてくれる。つまり、教え方が効率化するなど、何らかの効果があるのは間違いないといえます。