長らく続く「学校の働き方問題」がAIで変わる?
最近、メディアを明るくにぎわせているAI。
近年、メデイアに暗い影を落としている教員の働き方問題。
この2つを組み合わせることで、教育シーンが一変するのではないか。そう感じています。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、すでにビジネスフィールドでその価値を証明しつつあります。そして、これらのAI技術が複数組み合わされ、そして既存のソフトへと組み込まれることが急速に進んでいます。
例えば、MicrosoftのCopilotがその一例です。CopilotはWord、Excel、PowerPointといった主要なソフトウェアにAIを組み込むことにより、誤字の自動修正や文章の自動生成はもちろんのこと、スライドやグラフなどもテキストによる指示で生成できるようになることが予想されます。
そうなると、これまでの数倍、数十倍短い時間で仕事を終わらせるようなことも起こりうるでしょう。こういったAIが、長らく続く学校の働き方問題の将来を明るく照らしてくれるソリューションになるかもしれません。
AIで校務をアップデートする
AIの能力を活用することで、これまで学校現場において手作業で行っていた多くのタスクを自動化し、時間と労力を節約できるようになります。
具体的な例として、アンケートの結果を集め、整理、分析するという作業が挙げられます。Microsoft Forms(以下、Forms)などを使うと選択項目は自動で集計されグラフ化されるといった機能があります。今までは、自由記述形式の回答を一つずつ読み、分類し、整理し、まとめるということを、手作業で行っていました。
しかし、ChatGPTのようなAIを活用すれば、これらのデータを短時間で整理し、分析することが可能となります。Formsで回収しテキストデータをExcelでダウンロードし、ChatGPTに「ポジティブとネガティブに分けてテーブルにしてください」といった指示を出すことで、多くのテキストデータを分類・整理することができます。
研究主任として、教員や子どもたちの意見をアンケートで回収して分析する仕事は、これまで2〜3時間かかかっていましたが、ChatGPTを活用することで、ものの数分でできるようになりました。生産性の向上を強く感じます。
また、時間割の作成や家庭訪問の日程設定など、教職員の日々の業務もAIによって大幅に効率化されることも予想されます。こういった複数の学年やクラスにまたがる調整業務は、学校の業務の中で代表的なボトルネックとなっていました。簡単に言うと「こちらを立てればこちらが立たず」といった業務をこなすことは、人間にとって非常に困難なものでした。
大規模校で高学年の担任をしていた頃の話です。4クラスの学校で時間割を組むとなると、体育館や家庭科室といった特別教室の割り当て、音楽の専科の先生の都合、学年の教員の出張など、ありとあらゆる要素が絡まり合うので、一筋縄ではいかず、残業の要因になっていました。19時ぐらいまで4人で途方に暮れていたことをよく覚えています。しかし、AIなら瞬時に適切な組み合わせを導き出せるので、「こちらを立てて、あちらも立てる」ということもできるようになるでしょう。
懇談日程などは、Formsで保護者から希望日を回収すれば、住所や兄弟関係なども考慮したうえで、全校児童分が自動的に生成されるようなことも可能になるのではと考えています。
AIで授業をアップデートする
世間の耳目を集める中、7月4日に「初等中等教育における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が文科省よりリリースされました。
結論から言うと、「AIの活用は学校教育では禁止」ではなく、「慎重を期したうえで学校教育での活用を目指す」 という方向だといえます。
授業での活用については以下のように述べられています。
こうした考え方を踏まえつつ、私が実践した画像生成AIを活用した授業の例を紹介します。使用したものはCanvaのText to ImageとMagic Editという画像生成AIです。まずはその特徴を説明します。例えば、CanvaのText to Imageで「京都 舞妓 ロボット」と指示すれば、下記のような画像が生成されます。
そして、生成された画像に修正を加えるときには、Magic Editを使い、指定した場所に指示を出します。ここでは舞妓ロボットの目と手元に対して、下記のような指示を出してみました。
かなり不気味になりましたが……このように、画像生成をテキストによる指示でできます。
では実際、どのように授業で使ったのか。図工科で「妖怪お面作り」という課題に取り組みました。テーマを設定し、それをもとにオリジナルの妖怪をデザインし、紙粘土でお面を作るという活動です。なお、この授業デザインは、教育系スタートアップ企業COLEYOさんにご協力いただき、そこにAI活用を掛け合わせたものになります。
まず、子どもたちが日常的な現象をテーマにアイデアを出し合いました。例えば、「朝早く起きようとするけど二度寝してしまう」とか、「宿題を始めようとする瞬間にお母さんに呼ばれる」といった具体的な事例が挙げられます。
その中で、ある子どもが「最近、物が勝手に落ちる」というテーマで妖怪を考え始めました。Text to Imageを使って「物が落ちる妖怪」のイメージを生成し、その画像を参考にして、お面のデザインを作りました。
ただし、子どもたちは実物のお面を作る際には、単に画像をコピーするのではなく、参考にしながら自分たちでデザインをしています。また、妖怪のイメージも、AIが生成したものをそのまま受け入れるのではなく、Magic Editを使ってテキストで指示をして何度も修正していました。
AIは、あくまでもアイデアを出すための壁打ちのツールとして位置づけており、子どもたちの創造力を拡大するための手段として活用しています。AIを活用することで、アイデアの幅を広げることができ、苦手な子どもたちの創造力も引き出すことができるというメリットがあると感じています。もちろん、考えることが得意な子どもはAIを使わずに自分で考えます。
冒頭でマイクロソフトのCopilotの例で述べたように、AIはわれわれの生活の隅々にまで行き渡り、使う使わないを選択することは今後できなくなっていくと考えます。そういった未来を生きる子どもたちにとって、「AI活用能力」というものが求められていくのではないでしょうか。
生成AIの黎明期である今、われわれ教育者はこのAIとのあり方に向き合い、よりよい教育へとシフトさせていくことは、最も重要なミッションの1つであると考えます。
(注記のない写真:東洋経済撮影)