AI研究者、東大教授・松尾豊が語る「生成AI」が教育業界に与えるインパクト 「変化の側に身を置くメンタリティー」が重要

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ただ、これからどのような形で学校の現場や生徒一人ひとりが使うようになるのかは、いろんな仕組みやサービスがもっと出てこなければわかりません。今のChatGPTのままで広がるわけではなく、教育の現場に合わせたサービスとして導入されることで学校でも普及していくと考えています。

例えば、児童生徒の勉強をサポートするアプリのようなものもできるでしょうし、先生がもっと教えやすくなるツールもできるでしょう。これはインターネットが出現したときに、どのようなサービスが出てくるのかわからなかったのと同じで、現時点で明確な答えはありませんが、いろんな可能性はあると思います。

実際、ChatGPTに論文のPDFを入れるだけで講義のスクリプト(台本)が自動的にできるサービスを私の研究室の学生があっという間につくってしまいました。このように、これからさまざまな教育サービスが生まれていくでしょう。

大人にも子どもにも重要なのは「変化を嫌がらないこと」

――ChatGPTなどの生成AIが仕事をしている人たちにとって脅威になることはありませんか。

生成AIには、技術が進むという話とサービスが広がっていくという話の両面があります。例えば、iPhoneが登場したのは2007年で、当時からアプリを載せる技術や仕組みはありましたが、まだ社会全体には広がっていませんでした。しかし、今やいろんなアプリが登場し、みんなが使っている状態になっているわけです。

大規模言語モデルの技術は、ChatGPTがわかりやすいデモンストレーションになっていますが、これを使ったサービスはまだまだ未開拓で、広大な活用領域が広がっています。だから今、すごい勢いでMicrosoftやGoogleなどの大手企業やスタートアップ企業が参入しようとしています。

その流れは当然、教育の分野に及んできますし、ほかの分野にも浸透していきます。そこにマーケットがあり、ビジネスとして成立するのであれば、サービスは進化していきますし、そこで影響を受ける仕事も出てくるでしょう。

例えば、ホワイトカラーにもさまざまな職種がありますが、営業ツールや議事録を自動で作るサービス、スケジュール調整用のAIなどが登場して、今の仕事が代替される可能性があるでしょう。将来的には「昔はスケジュール調整などをメールでやっていて、AIはなかったらしいよ」と言われるような時代がやってくるのかもしれません。

――そんなAI時代を生きるうえで、私たちにはどのようなスキルが大事になってくるのでしょうか。

よく聞かれることですが、わからないというのが正直なところです。今ChatGPTが出現したことによって、大きなマーケットが生まれようとしているわけで、さまざまなサービスが立ち上がってくると、書くという作業が大幅に減るかもしれませんし、人が翻訳することも必要なくなってくるかもしれません。

そうした進化が今、数週間、数カ月単位で起こっています。それに対し、教育が10~20年という長いスパンで行われるわけですから、先回りすること自体ができないと思ったほうがいい。社会の動きを読んで、のちのち自分が優位なポジションに就くために10年前から進路を考えて、そのとおりになるなんてことはこれからもうないと言ったほうがいいでしょう。

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