ようやく国が動き出した。2018年ごろから全国的に深刻化してきた教員不足に、これからどんな対策を打つのか、具体策が決定されたのである。

昨年末の2024年12月24日、2025年度予算に関する文科省と財務省の大臣折衝で、公立小中学校の「教職調整額」(実質的な残業代)を、2030年度までに4%から10%へ引き上げることが決まった。

さらに、2026年度から、中学校も35人学級化を段階的に実施し、そのための教員定数を増やすことが合意された。

さて、これで教員不足の問題は一気に解決するのだろうか。

残念ながらこの突然の大臣合意だけでは問題は解決しそうにないこと、そして、今最も求められる政策は、今回のような突然の単発的な発表ではなく、国が中長期的に教員定数を改善していく計画を発表する政策であることを、ここで指摘していきたい。

「教員不足には4段階ある」調査データが示す不足の実態

そもそも、いったいなぜ、これほど教員が不足するようになってしまったのだろうか。

常識的に考えれば、急激な少子化が何十年も進んでいるのだから、教員需要も急激に減っているはずであり、こんなに教員が不足してしまうはずがない。

そこで、佐久間研究室では2019年から2021年にかけて、協力を得られたある自治体(以下X県)において、公立小中学校の教員不足に関する詳細な実態調査を行った。その結果、教員不足を引き起こした最も大きな要因は、地方自治体が正規雇用教員を採用控えしたことにあったことが明らかになった。

急激な少子化が進んでいるから、今必要な先生をすべて正規雇用してしまったら、将来的に先生が余ってしまう事態を、地方自治体が見通して、少子化よりも急激に教員を削減していたのである。

まず、下記をご覧いただきたい。これは、X県の2021年5月1日時点での公立小中学校における教員配置状況を図示したものである。まず、X県では、5月1日に正規雇用教員が1971人も欠員になっていたことがわかった。つまり担任として配置されているはずの先生が、年度始めから1971人も足りていなかったのである。

そこで県教委は、第2段階として、臨時的任用教員(教員免許を持ち、常勤だが任期1年間の非正規雇用の先生のこと。以下、臨任)を1821人も探して配置したが、まだ150人が不足していた。

第3段階として県教委は、教員がいない授業の一部だけでも補うため、常勤的な働き方をする非常勤講師を122人も探して配置した。それでもなお、28人分の教師の穴は、まったく補填されなかった。こうなると、県教委にはもうなすすべがなく、「あとは学校で何とかしてください」ということになる。

最終的に第4段階として、各学校では、見つからない先生が担当するはずだった授業を、今いる先生が自己犠牲的に負担するなどして、なんとかカバーしていた。こうした先生たちの使命感と努力によって、この県では授業が実施できなかったという事例は、この年度では一例も報告されていなかった(ちなみに、担当する授業や業務がいくら増えても、先生の給料は上がらないし、手当もつかない)。

教員不足が起きたメカニズムを探る

その一方、2021年度末時点で、この年度に産育休・病休を取得した教員の数を調べたところ、産育休は867人、病休取得者は87人だった。つまり、この年度に本来必要とされたはずの臨任の需要は、X県合計で954人だったことがわかった。

佐久間亜紀(さくま・あき)
慶応義塾大学 教職課程センター 教授
早稲田大学教育学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、博士(教育学)。東京学芸大学教員養成カリキュラム開発研究センター准教授などを経て現職。専門は教育方法学、教師教育論。日本教育学会理事、日本教育方法学会理事、日本教師教育学会理事。教師の力量形成を研究・実践し、各地の学校現場で授業づくりに取り組む。近著に『教員不足-誰が子どもを支えるのか』(岩波書店)
(写真:本人提供)

文部科学省や多くの教育委員会は、臨任のなり手が不足したことが教員不足の原因だという説明を繰り返している。しかし、X県のデータをみれば、5月に臨任の先生を1821人も配置できていたのだから、本来の需要954人を大幅に上回る供給数が存在していたことがわかる。

もしも、4月にきちんと教員が採用されて配置されていれば、臨任の供給は十分すぎるほど足りており、教員不足は起きなくて済んだはずだったのだ。

要するに、X県のデータを見る限り、教員不足の主たる原因は、非正規雇用教員のなり手が減ったことではなく、非正規雇用教員の需要が増えすぎていたことにあった。県教委は、翌年度に必要な正規雇用教員数はあらかじめわかっていたけれども、必要な先生の数をすべて正規採用することができていなかったのである。

教員の採用控えが大きくなりすぎて、非正規雇用の受給が供給をはるかに上回ってしまったことが、教員不足を引き起こしていた最大の要因だったといえる。

これはX県のデータにすぎないが、おそらく全国的にも同様のことが起きていたと推測される。

ちなみに、正規雇用教員がどれくらい不足していたのか、その量を具体的にイメージするために、年度当初の欠員1971人をX県の総学校数504校で割ると、1校当たり3.91人になる。各学校に必要な担任が約4人ずつも、あらかじめ採用されず、非正規に置き換えられていた計算になる。

そして、このX県で不足している先生の数には、授業だけを担う非常勤講師の先生の数は含まれていない。あくまでも、学校の運営や学級担任をする常勤の先生がどれだけ足りないか、というお話である。

教員の非正規化には都道府県格差がある

いわゆる担任の先生が、どれくらい採用控えされ、非正規雇用に置き換えられているかについては、文科省が公表しているデータからも確認できる。

都道府県・政令市ごとに教員の正規雇用教員の採用率を見てみると、義務標準法で定められた標準的な教員の数を、きちんと正規雇用教員(グラフの青い部分)として採用できているのは東京都しかない。都道府県によって教員の雇用状況には大きな格差があることがわかる。

全国平均でみると、国が定めた標準的な先生の数の92.8%しか正規雇用されていない。つまり、全国平均で、学校の担任の先生の約7%は、年度の最初からあえて不足させられていて、毎年毎年、非正規雇用の先生を探してこなければ、4月に学級担任が配置できない状態になっている、ということなのである。

この状態には、4月に学級担任がきちんと確保されていない、ということに加えて、もう1つ大きな問題がある。学校には、授業以外にも、学校運営に関わるさまざまな重要な管理業務がある。どの会社にも、派遣社員には頼めない中核的な経営業務があるのと同じだ。これらの学校運営の中核である重い仕事を担う、正規雇用教員が削減されているので、1人当たりの仕事量が増えてしまっているのである。

この、教員1人当たりの仕事量が大きくなり続けていることが、教員の長時間労働が改善されない大きな要因の1つなのである。2000年代から教員の非正規化が進められるようになるにつれ、教員の長時間労働が深刻化してきているのは、偶然ではない。

国の計画が中止されて採用控えが起きた?!

なぜ多くの都道府県・政令市は、教員を採用控えしなければならなかったのだろうか?

全国で教員の採用控えが起きたきっかけは、2000年代に本格化した国の行財政改革だった。国は、財政状況を改善するため、教育分野では大きく2つの改革が行われた。1つは、国立大学を民営化し、独立行政法人化する改革だった。

もう1つの大きな改革が、義務教育費国庫負担の削減である。文科省の予算の大きな割合を占めるのが、義務教育の学校を運営する予算であり、そのほとんどは教員の人件費である。これを削減する必要に迫られて、それまで国が教員給与の半分を負担していたのを、3分の1に削減することが決定された。

さらに、国は1959年からずっと続けてきた教員数を改善する「公立義務教育諸学校の教職員定数改善計画(以下、改善計画)」についても、第7次(2005年まで)で中止にしてしまった。つまり、これ以降は、国がいつ教員定数を増やしてくれるか、地方自治体にはまったく見通せなくなってしまったのである。この計画中止こそが、地方自治体が採用控えをしなければならなくなった根本的な原因なのだ。

そもそも国だけでなく、地方自治体にも財政改革が求められ、教員を含めた地方公務員を大幅に削減せざるをえなくなっていた。そこで教員数削減に加えて、教員の採用控えと、教員の非正規化が3重に進められていった。

なぜなら、国の改善計画がストップした中で、もしも今必要な教員をすべて採用してしまったら、その全員が退職するまでの給与費を、地方自治体がすべて負担する財源が必要になるからである。

多くの自治体にはそんな財源はないので、今必要な先生をあえて採用せずに、しばらくの間は非正規でしのいで、未来に先生が余ってしまう事態を避けようとしたのだ。

この採用控えによって、今必要な正規雇用教員を雇えなくなり、学校現場は毎年4月から、担任をしてくれる臨任の先生を、大量に必要とするようになった。

そして、正規雇用教員と同じように、常勤で担任や授業や部活の指導をするけれども、1年任期で給与なども低い臨任になりうる人のほとんどが4月に担任としてスタメン入りしてしまい、その結果、年度途中に産育休や病休で休んだ先生のピンチヒッターをしてくれる非正規雇用の先生が、ほとんどみつからなくなってしまったのである。

基礎定数と加配定数のちがい

一方で財務省は、教員定数をきちんと増やしてきたと説明している。確かに財務省は、2005年に定数改善計画が打ち切られて以降、毎年「加配定数」を認めてきた。

ところが、この「毎年」というのが実は重要なポイントになる。加配定数とは、単年度限りの定数を意味している。国が加配定数をいくら増やしても、その加配定数が翌年度にも維持される保障は、まったくない。

そのため地方自治体は、国が加配定数分の予算をいくらつけてくれても、教員を正規雇用する計画は立てにくいのである。

つまり、地方自治体が採用控えの数を適正化できるようになるためには、「加配定数」ではなく正規雇用教員の財源を保障する定数、つまり「基礎定数」の改善計画が必要不可欠なのである。

今、最も必要な政策とは

要するに、地方自治体が教員の雇用控えを減らして、教員不足を少しずつ解消していくためには、国が中長期的にどれくらいの財源保障をしてくれるのかについての、長期的な見通しが立つことが必要不可欠なのである。

そのためにも、1959年からずっと続けられていたのに、2005年で打ち止めになったままの教職員定数改善計画を再開することが、今最も必要な政策だといえる。

冒頭で述べた、中学校35人学級化にむけた昨年末の大臣合意は、基本的には喜ばしい朗報である。ところが、事前の計画もまったくない中で、突然、来年度から35人学級化にするぞ、教員需要を増やすぞ、といわれても、地方自治体や学校現場はかえって混乱してしまう可能性が高い。

まず、もはや教員採用を募集しても、応募者が集まらないところまできてしまっているからだ。昨年度は、教員採用試験の応募者が、募集数を下回ってしまう学校種や教科も出てきていた。いきなり2026年度から中学校の教員需要が増やされることになったが、2025年春の教員採用試験で本当に十分な教員志望者を確保できるのか。

また、増えた需要分を一度ですべて正規雇用することは、実際には難しいだろうから、今でさえ足りない非正規の先生を、さらに確保することはできるのか。

このように、安定して正規雇用・非正規雇用の教員を確保していくためには、長期的な計画が必要なのだ。

教員不足を改善するための計画は急いで決定してほしいが、定数改善のスピードは、むしろゆっくりで構わない。細くてもよいから長く、中長期的に教員の基礎定数を改善する計画が示されること、その財源保障の見通しが示されることこそが、地方自治体の教員不足対策への確かな支援につながっていく。

少子化が進んでいる今は、改善計画を再開するには、むしろチャンスである。少子化で教員需要はいずれにせよ急激に減少していくのだから、教員の総実数を増やさなくても、基礎定数を増やすことによって子ども1人あたりの教員数を増やすことが可能になるからだ。国にはぜひとも、第8次教職員定数改善計画を再開していただくことを期待したい。

なお、もしもこのまま教員不足が放置されると、先生が確保されてきちんとした教育を受けられる子どもと、そうでない子どもとの差が広がり、国全体の分断が深刻化してしまう可能性が高い。これからの日本の未来をどうするのか。社会全体での議論が、今求められている。

(注記のない写真:yukiotoko / PIXTA)