学校プール縮小傾向の今こそ、水難事故予防のための「命を守る」水泳学習を 背浮き、ライフジャケット、着衣泳などの体験を

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縮小
海に囲まれ、流れの速い河川も多い日本では、毎年夏になると水難事故が発生する。2022年の死者・行方不明者数は727人だった。一方で、施設の老朽化や教員の働き方改革などを受けて、学校プールのあり方が議論されている。そんな中でも、学校での水泳実技指導を続けているのが、東京海洋大学で准教授を務める田村祐司氏だ。精力的に活動する同氏は、この夏も各地に招かれて教員への講習会などを実施してきた。縮小傾向にある学校の水泳指導において、同氏が目指す「教育の原点」とは。

「速く泳ぐため」ではなく、「命を守るため」の水泳学習へ

「学校教育の中でこれだけ広く水泳を取り入れているのは、世界でも日本だけ。そうした意味では、これまでは恵まれていたといえると思います」

東京海洋大学准教授の田村祐司氏はこう語る。しかしそれがはたして「実用的」だったかという点には、やや疑問の余地があると続ける。

「プール設置が増え始めた時期と1964年の東京五輪が重なったこともあり、学校の授業でも速く泳ぐことが重視されてきたように思います。競技水泳を否定するわけではありませんが、ゆっくりでもいいから、水の中で命を守る方法を知っている必要があると思うのです」

田村祐司(たむら・ゆうじ)
東京海洋大学・学術研究院 准教授
筑波大学大学院(体育研究科)修了。伊勢崎市立第二中学校教諭を経て1992年に旧・東京商船大学に着任し、2017年から現職。水難学会理事も務めており、溺水予防教育の普及に注力している
(写真:本人提供)

日本は海に囲まれており、流れの速い河川も多く、毎年夏になると痛ましい水難事故の報道が相次ぐ。田村氏が理事を務める水難学会は、会員の8~9割を消防士が占めるが、彼らに聞く話はとてもつらいものがあるという。

「通報を受けて現場に急行しても、ほとんどの場合、水難者はすでに水没しており、救助ではなく捜索活動になってしまうそうです。緊急通報から救助隊が現場に到着するまで、平均して約8分30秒かかるとされています。つまりその約10分を沈まずに浮いて待つことができれば、生還の確率は飛躍的に高まる。その方法を子どもたちに伝えるために、私たちは学校での講習を行っています」

「身を守るための指導は教育の原点」だと語る田村氏。今こそ、学校水泳の授業内容について考えるタイミングが来ているのかもしれない。その理由として、学校指導要領の改訂や、「学校プール」が縮小傾向にあり、質を重視する必要性に迫られていることなどが挙げられる。

「新しい学習指導要領が2020年に小学校で施行されましたが、今回の改訂で初めて、高学年の体育科の水泳運動の項目に、溺水予防を目的とした『安全確保につながる運動』が明示されました。その中で『背浮き』が示されたのです。しかしこの3年間はコロナ禍でプールの授業が中止されていたため、本格始動は今年が最初の年になったはず。まだどうすればいいかわからない先生が多いと思うので、指導方法を明文化したり具体的な映像を用意したりして伝えていきたいと思っています。また、プール授業の外部委託の流れは確実に広まっており、授業時間数の減少も懸念されています。水泳授業への取り組み自体が圧縮されている今こそ、原点に立ち返って優先順位を明確にし、命を守るための実技指導をすべきではないでしょうか」

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