学校プール縮小傾向の今こそ、水難事故予防のための「命を守る」水泳学習を 背浮き、ライフジャケット、着衣泳などの体験を
子どもたちにも教員にも「恐怖」を感じさせないために
田村氏に、学校での水泳学習の手応えを聞いてみた。
「ライフジャケットを使った授業では、とにかく子どもが『楽しい』『面白い』と言ってくれます。水を怖がっていた子どもほど、水中で自由に動けることで自信がつくのでしょう。その自信が、万一のときにパニックになることを防いでくれると思います。背浮きの指導でも、一つひとつの動きの理由を説明しながら、ゲーム性を持たせるなど工夫しています。いずれにしても、恐怖ではなく楽しさを通じて学んでもらうことを重視しています」
単なる教科として考えれば、水泳を嫌いになっても「残念なこと」程度で済むかもしれない。だが命を守るための必須の学びと考えたとき、それが習得できていないことは「残念」では済まなくなる。水泳を嫌いにさせないために、田村氏の指導は、子どもにとって楽しいことが最優先なのだ。
では田村氏の講習を受けての教員のリアクションはどうか。この問いには「肯定的な先生が多いですが、ある根本的な不安を感じ取ることが多い」と答えた。
「学校プール存続の議論の1つでもあると思いますが、すべての先生が専門的な水泳の指導ができるわけではありませんよね。授業自体が命に関わることなので、『怖い』と感じている先生が多いのだなと思います」
こうした実態を鑑みても、田村氏は外部の力を借りた指導の導入を肯定的に捉えている。とくに授業数が減る中で、限られた水泳授業時間を有効に使うことの重要性を繰り返した。
「3年間のコロナ禍で、夏休みの学校プール開放も減少する流れにあり、夏休み前で水泳の授業を終わりにする学校もどんどん増えていっているようです。使用期間の短いプールの維持を諦め、その費用をスイミングスクールへの委託費用に回す学校は、とくに都市圏で増えています。しかし豪雨や河川の氾濫、津波などの水災害も増える今日、命を守るための水泳技能が必要になるのは、水辺での水難事故のときだけではありません。限られた時間を専門家による溺水予防教育に充てることは、そのまま子どもたちの命を守ることになるのではないでしょうか」
水の危険性を知る田村氏だが、旧東京商船大時代から大学生の遠泳指導にも当たっており、海や川の魅力も知っている。背浮きをしているときの心電図を測ると、自律神経は「休息型」の副交感神経が優位になっているそうだ。つまりこれは、人が背浮きでとてもリラックスした状態になっているということ――そんな研究もあるのだと、笑顔で語ってくれた。
「海や川は安全に楽しめれば、魚や海藻など、水圏の豊かな生態系を目にすることもでき、子どもたちにとってもすばらしい学びの場になります。『水辺は危険だから、海や川には近付かないように!』という後ろ向きの指導をするだけではなく、危険を理解し安全を確保して、ぜひ水辺に親しんでほしいとも思っています」
(文:鈴木絢子、注記のない写真:マハロ/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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