ニュージーランド公立小の"自由で刺激的"な日常 移民大国で根付く「ダイバーシティ教育」の実際
鳥羽:このときに校長先生が「すべては予算の問題なんだ」と、はっきりおっしゃっていたのが印象的でした。
生きた環境に触れる授業
平倉:先生を複数つけられるのも、実験的な教室空間をつくれるのも、あくまで予算があってのこと。ちょうど、これから学校の教育方針を教育省に伝えて予算を取りに行くところだ、と話されてましたね。
鳥羽:ニュージーランドでは、校長の裁量が大きく認められているんですか。
平倉:そのようです。教育省が設定した目標を、各学校がそれぞれの仕方で解釈してカリキュラムを組む。同じ公立校でも、もっと整然と配置された机に向かって勉強するところもあり、学校ごとに異なる個性があります。それは各学校の伝統であると同時に、地域の特徴も反映している。地域の平均的な経済水準や、エスニシティー(民族)構成によって、学校の特色は変わってきます。私の子どもたちが通っている学校では、生徒の多様性と、カリキュラムの柔軟性・横断性に大きな特色があります。
鳥羽:具体的にはどんな授業が行われているんですか。
平倉:授業については、子どもたちの話を通して断片的に知るだけなのですが──印象的だったものにこんな授業がありました。
低学年の移民生徒向けの英語の授業で、ニュージーランド固有種の鳥についての本を読んでいたとき、先生が教室から中庭に出て、鳴き真似を始めたそうです。すると実際にその鳥が飛んできたんです! 子どもたちはそこで、言葉の勉強から、生き物の観察へと連続的に移行します。本に書かれていた言葉が、生きた世界のなかで命を得る。
さらに授業を重ねると、ニュージーランド固有の生態系とそれを生んだ地理、島にやってきた人と人が連れてきた哺乳類によって生態系が破壊されていること、先住民マオリにとっての鳥の重要性などへと学習が広がっていきます。生きた環境に触れながら、言語・生物・地理・歴史・文化など、特定の教科にとどまらない学びの場がつくられている。
高学年になると、ガーデニング(園芸)とビーキーピング(養蜂)が中心的なプロジェクトになります。学校に隣接した畑で野菜を育て、収穫して調理する。巣箱でミツバチを育ててハチミツを採り、ラベルをデザインして販売する。ここでも生きた環境のなかで、複数の教科にまたがる実践が行われています。
子どもたちは自分たちで試し、観察し仮説を立て、またDIY精神に富んだ地域の大人たちから技を学び、成長していく。どの場面でも、大人も子どもたちもリラックスしていて、とにかく楽しそうなんですよ。もう一つ大きな特徴を挙げるとすれば、学校の理念に「どうやってレイシズム(人種主義)を乗り越えるか」という視点が入っていることです。
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