なぜ、国際教養大学で人材は育つのか  中嶋嶺雄著

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小


最初に「学ぶ方法」を学ばせる教育機関は、大学に限らず聞いたことがない。学生たちはTOEFLレベルで分けられてEAPプログラムをこなしていく。EAPを修了するにはTOEFL500点以上が必要だ。そして海外留学するには550点(TOEIC750相当)以上が必要。そして留学から戻るころには、TOEFL600(TOEIC900相当)の語学力を身につけている。

「外国人留学生とともに1年間の寮生活」も厳しい。家族以外との共同生活は初めての体験だし、相手は外国人。衛生習慣などの文化は異なっている。しかしそういう生活を送るうちに、多様な文化を受容する姿勢が育まれていく。

そして留学では「講義が聞こえない」「友達ができない」という困難に遭遇し、自分から話しかけなければ何も解決しないことを学ぶ。海外留学によって磨かれるのは語学力だけではない。学生の社会人基礎力が圧倒的に伸びるそうだ(171P)。

国際教養大学がユニークなのは、英語体験だけではない。「教養」の概念が一般よりもかなり広い。社会学、政治学、心理学だけでなく、芸術論、美術史などの芸術科目があり、教養数学、統計学などの数理科目も含まれている。また歴史は当然として、体育、茶道、華道、書道もある。

日本で「教養」を「幅広い視点を養う基盤能力」と定義することはあるが、あまり中身のない実体だと思う。教養の代表として必ず引用されるのは漱石、鴎外くらいだが、なぜこの二人が引用されるのかわからない。この二人だけというのは貧しすぎないか。数学や美術、音楽も教養ではないか。

かなり意外だったのは、グローバル人材として育った学生のほとんどが、日本のメーカーを志望することだ。外資系ではないそうだ。その理由は、学生たちが留学を通じて日本を再発見するからだ。海外に出て、はじめて日本のものづくりのすばらしさに気づく、と著者は説明している。

また外資系は、日本に市場を求めてきているので、日本で採用した人を海外に出すという発想がない。国際教養大学の学生が海外で活躍したいなら、海外展開している日本企業に入った方がチャンスがある。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事