がん治療の現場に異変、深刻化する「医師の偏在」 「医師不足で手術待ち数カ月」の恐怖シナリオ

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NICUを新たに設けるには、産婦人科の医師だけでなく、新生児医療を担当する複数の常勤医師の配置も必要だ。しかし新生児科医は数が少なく、NICUを新設することは難しい。

現在、産婦人科の常勤医師は9人。診療体制は逼迫しており、休暇も十分に取れていない状況だ。

藤村氏は懸念することがある。若手の育成だ。「若手は労働時間の制限によって経験する手術数が減り、学ぶチャンスが少なくなっている。医療の質を担保しながら働き方改革を推進するのは、正直難しい」。

少ない医師数で医療体制を充実させるには、医療機関の集約が必要だろう。しかし患者によっては医療機関までの距離が遠くなるなど、地域格差が広がる可能性も考慮しなければならない。

共働きの増加に対応

医師数の劇的な増加が見込めない中、必要なのは業務時間の短縮だ。これまで病状や手術などの説明は、患者やその家族の要望に応えて、夜に行うこともあった。しかし今後は、医師の労働時間内で行うことや主治医以外が行うことを、患者も受け入れる必要がある。

また各病院では若手確保のため、共働き世帯の増加に配慮した働き方の見直しを進めている。

例えば自治医大附属病院は変形労働制を導入した。手術時間に合わせて1日の勤務時間は10時間と長いが、勤務日は週4日に収め、残りの1日は外勤日や研鑽日にできる。松戸市立総合医療センターでは子育て世代の事情を考慮し、医師の時差勤務制度の導入を検討している。

外科医については男性中心の働き方も問われている。消化器外科女性医師の活躍を応援する会で会長を務める、大阪医科薬科大学の河野恵美子助教は、「かつて外科医は、24時間365日働くことが前提だった。しかし若い世代の仕事観や家庭観は変化している。若手医師を増やすには、女性に特化した支援ではなく外科全体の働き方改革が必要」と訴える。

指導者の意識変革も不可欠だ。名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア形成支援センター長補佐で、消化器外科医の髙見秀樹病院講師は「若手の医師を増やすために変えるべきはベテラン医師の指導方法だ。従来の『見て学べ』だけでは効率よく育たない。若手にとって心理的安全性が保たれた中で効率よく学べる仕組みづくりが欠かせない」と話す。

しかし病院側の努力だけでは変わらないこともある。日本では診療科で給与の差をつけづらい。責任や負担の大きい手術、休日や深夜の手術を担う医師は、報われないシステムになっているのだ。やりがい搾取を見直さなければ将来の医療は成り立たないだろう。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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