がん治療の現場に異変、深刻化する「医師の偏在」 「医師不足で手術待ち数カ月」の恐怖シナリオ
背景にあるのは、医師の働き方改革が始まってもなお改善しない、外科医の過酷な労働環境だ。
国立病院機構のとある病院に勤務する、40代外科医の一日を見てみよう。朝6時台に出勤し、7時半まで「自己研鑽」という名目で、無給で雑務をこなす。回診とカンファレンスを終え、午前9時から午後10時まで手術室にこもる。外科の手術は長時間に及び、10時間を超えることはザラだ。
だが、いわゆる名ばかり管理職であるため、夕方5時以降は無償労働だ。午後11時に回診を終え、翌早朝からの勤務に備える。
医師不足は診療体制の縮小にもつながる。東海地方にある600床の病院の消化器外科では今年、日中の院外からの緊急手術要請を断ることが増えた。同院の医師は「受け入れたくても、予定されていた手術だけで人員が精いっぱいで、断らざるをえない」と語る。
消化器外科を志す医師には、使命感が強く長時間勤務もいとわない覚悟を持つ人も多い。だが結婚し子を持つとなると、そうはいかない。初期研修で消化器外科を選んだものの、過酷さを目の当たりにし、緊急手術が少ない乳腺外科などを選ぶケースもあるという。
若手不足のシワ寄せは、手術を主導する40〜50代のベテラン医師に及ぶ。若手が担っていた夜の当番や緊急出勤を、ベテランが受け持つ事態に陥っているのだ。その結果、「将来を期待された40代の中堅指導医ですら、職場を去っている」(ある消化器外科医)。
産婦人科の状況も深刻
出産に24時間対応する産婦人科の状況も深刻だ。医師数は微増傾向にあるが、他科に比べ女性の比率が高く、産休・育休で欠員が生じやすい。地域によっては需要に対して体制が十分に整っていないところもある。
その一例が千葉県松戸市にある松戸市立総合医療センター。県内に9つある地域周産期母子医療センターの1つだ。松戸市や柏市、流山市などの東葛北部医療圏において、ほかの病院では扱いが難しいハイリスク分娩など、年間800件近くを受け入れる。
大都市に近いにもかかわらず、「地域の需要を満たせていない状況」(同院の藤村尚代周産期母子医療センター長)だ。分娩数に対し必要なNICU(新生児集中治療室)が足りない。
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