ハワイの「ABCストア」米国本土にも店を出す狙い 創業した日系家族に受け継がれてきた経営哲学

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一方で、長年、ABCストアの利用客の中心を占めてきた日本人旅行者は、円安の影響をもろに受け、いまだコロナ前の「3割程度の回復にとどまる」のが現状だという。

「先の見えない未来がいつも心配だ。新型コロナのパンデミックのときは、一時的に75%の店舗を閉鎖せざるをえなかった。政府の支援と、事業を継続するのに十分な蓄えがあったおかげで、誰も解雇せずに済んだ。非常時に備えてお金を貯めておくことは両親の教えだ。(不測の事態に対応するための)十分な資金を確保しておかなければならない」

「基本は、従業員を大切にすることだ。1つは信頼、2つ目は忠誠心だ。私はすべての従業員を維持するために懸命に働いている。まずは彼らの賃金を上げなければならない。当然経費は増えて結果的に収益性は下がるかもしれないけれど、従業員が私たちのビジネスを支えているんだ」

日本のコンビニをどう見ているか

セブン-イレブンやローソンなどハワイに進出する日本のコンビニブランドもあるが、脅威とは捉えていないという。

「日本のコンビニは非常に効率的で標準化されている。どこへ行っても同じなのはいいことだ。でも、型にはまるのはつまらない。観光客はABCストアの店ごとの微妙な違いを探検している。地域によって買えるものが違う。小売業はエンターテインメントでありたいと思っている」

ABCストアは食体験を提供する新業態の「デュークスレーン・マーケット&イータリー」やレストラン「バサルト」のほかに、ベーカリーや新鮮な食材を購入することができるグローサリーとレストランの複合施設「グローサラント」などを運営し、新たなチャレンジを続けている。

ABCストア ハワイ
ABCストアが運営する新業態の店「アイランド・カントリー・マーケット」。ピザやサラダなど新鮮な惣菜、土産品が豊富(筆者撮影)

ハワイらしい土産品を通してABCストアに親しんできたという人も少なくないだろう。だが、ハワイ移民1世の夫妻から始まったファミリーの歴史を知り、日系人コミュニティーへの貢献に対するポールさんの使命感に触れると、これまでの景色が違って見えてくる。日本からハワイの地に根を下ろした祖父母が編み上げてきた「助け合い」のネットワークの延長線上に、現在のABCストアがある。

ポールさんは自分の名刺の肩書を指差してこう言った。「わたしはたまたまトップにいるだけ。このシステムが運営され、維持されるように手を尽くすことが私の役割だ」。

ポールさんは、次世代の繁栄を見据え、利益が地域に還元される「エコシステム」の屋台骨を揺るぎないものにすべく、自身の役割にフォーカスしている。これこそが、旅先のハワイで味わい、持ち帰りたい、ABCストアのもう1つの体験土産になりそうだ。

前編:ハワイ「ABCストア」誕生の裏にある日系人の物語
座安 あきの Polestar Communications社長

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ざやす あきの / Akino Zayasu

1978年生まれ、沖縄県出身。2006年沖縄タイムス入社。編集局政経部、社会部を経て09年に朝日新聞福岡本部・経済部出向。出産育休後、保育や学童、労働、障がい者雇用問題などの取材を担当。連載「『働く』を考える」が貧困ジャーナリズム大賞2017特別賞受賞。20年3月末に新聞社を退職し、現在、Polestar Communications社長、Polestar Okinawa Gateway取締役広報戦略支援室長。執筆取材活動を通じ、沖縄を介してアジア展開を目指す企業の人的ネットワークの構築や商品・ブランド開発を支援している。

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