――日本は老舗が多い国だと言われます。
帝国データバンクの調査によると、日本で創業・設立100年を超える企業(以下、100年企業)の数は2022年に初めて4万社を突破し、2023年9月時点で4万3631社に達している。今年2024年には新たに2019社が加わる。倒産する企業もあるが、差し引きで毎年1000~2000の会社が設立100年を迎えている。
世界の100年企業数は2022年時点で約7万5000社程度とされるため、世界の約6割が日本に集中していることになる。日本は世界に冠たる老舗大国と言えるのだ。
日本はGDP(国内総生産)ではとっくに中国に抜かれている。一人当たりGDPも20位前後に甘んじ、2030年代には韓国、台湾に抜かれるという試算が出ている。日本の産業界は自信を失いかけている。
だが、日本が世界ランキング1位を保ち続けることができる分野が100年企業だ。単にランキングがトップというだけではない。欧米のMBAにも対抗しうる経営理論が100年企業には詰まっている。その事実を体系化、理論化して世界に発信していきたいと考えている。
100年続くカギは「温故知新」
――100年企業にはどんな特徴があるのでしょうか。
通常の経営学は、移り変わる時代の中でビジネスモデルを修正し、マーケットを睨み、テクノロジーを駆使しながら利益最大化を図ることを基本とする。こうした「知新」の能力は経営には必ず必要だ。
しかしそれだけで100年も事業を継続できるかというと、できない。100年企業の創業者は「知新」は他人に任せていることもある。知新は、代替可能だからだ。
老舗企業の創業者が担うのは代替不可能なもの、すなわち「温故」だ。
――温故とは。
日本の老舗企業は必ずといっていいほど次の3つの理念を所持している。「社会課題の解決」「自然との共生」「利他の精神」だ。
「自然との共生」は日本ではよく耳にする言葉だが、キリスト教のカトリックの教えとは対極にある概念だ。旧約聖書では、神は人間に自然を支配せよと教えている。人間中心の自然観だと言ってよい。
これに対し、自然と共生するという考え方はアジアひいては日本にしかない。より踏み込んでいえば神道の世界観だ。この地では、自然を支配できると考えることは人間のおごりだと見なされる。
理念と合わせて100年企業の創業者が重視しているのが信頼だ。従業員や顧客、株主、地域といったステークホルダーとの信頼関係である。
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