ビヨンドMBAの可能性秘める日本の「100年企業」 元中小企業庁長官が語る「温故知新」経営の強み

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――日本の100年企業は世界からどう見られているのでしょうか。

近年脚光を浴びている「ゼブラ企業」。アメリカ西海岸の、社会課題の解決と利益追求の両立を目指す企業群だが、ゼブラ界隈の人々が着目しているのが日本の100年企業だ。あるゼブラ企業の経営者は私にはっきりとこう言った。「ゼブラの最終形は日本の100年企業です」と。

中国や香港では日本の100年企業をめぐるツアーが組まれ、経営者たちが続々と訪れている。京都で開かれた日本の100年経営に学ぶシンポジウムに清華大学が参加している。

気候変動やパンデミックが頻発する現代で、西側諸国も東側諸国も、日本の100年企業が持つ危機を乗り越える力、持ち堪える胆力がどこから生まれてくるのか気になっているのだ。

日本人が憧れがちなMBAに、100年企業が持つ胆力を伝授できるだろうか。企業価値が高まったら「売れ」と教えるMBAの教えは、100年企業が志してきたものとは異なる。だが、MBAの経営理論と100年企業には共通点があることも付言しておこう。

MBAと100年企業の共通点と相違点

――共通点とは。

一つはコールオプション理論だ。不確実性が高い市場に対しては一気に投資するのではなく、最初は部分出資を行い、少しずつ投資額を増やしていく漸進的アプローチのことをいう。MBAで教わるこの理論、100年企業の経営者たちは「身の丈経営」という呼び名で当然のように実践している。

リーンスタートアップという考え方もそう。まずは必要最小限の機能を持った製品を売り出し、市場の反応をみながら製品を改良して再投入していくマネジメント手法だ。スタートアップの成功率を高めるものとしてやはりMBAで教えられる理論だが、これも100年企業の創業者、経営者たちは当たり前のようにやっている。

一方で、MBAの経営理論と100年企業では決定的に相違する点もある。

――相違点は。

MBAの経営理論は、経営上のリスクや不確実性を所与のものと捉える。不確実性はつねに存在するという前提から上記のリーンスタートアップの手法をとるわけだが、彼らが気づいていない事実がある。不確実性は「減らせる」のだ。

100年企業は、100年という時間の中で危うい取引、リスクを削ぎ落とし、信頼できるステークホルダーとの関係を踏み固めている。この理論はまだ未発表だが、100年企業は幾度も危機を乗り越える過程で、不確実性を低下させている。

MBA理論を実践しているであろうS&P500銘柄の平均寿命は1935年に90年だった。ところが2015年には15年に縮んでいる。企業(株式)の売り買い圧力に晒されるS&P500銘柄企業は新陳代謝が激しすぎるため企業の寿命が短いのだ。MBAの経営理論に則れば寿命が短いことは良いことかもしれないが、不確実性は減らない。

100年企業には、MBAの経営理論をビヨンドする理論が詰まっている。今年2024年は、これを世界に発信していくつもりだ。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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