「1日コップ8杯の水」はハッキリ言って無駄だ

健康な人が水を大量摂取しても意味がない

水分は野菜や果物にも含まれる。ジュースやビール、紅茶やコーヒーにも含まれる。コーヒーは脱水状態を助長すると反論する人もいるだろうが、それも事実ではないことは科学的に証明済みだ。

もちろん、水は最も理想的な飲み物だろう。しかし、脱水症を防ぐ唯一の手段ではない。しかも、必要な水分のすべてを、飲み物から摂取しなくていい。喉の渇きを感じにくいのではないかという心配も、基本的には必要ない。人間の体の調整機能は優秀で、実際に脱水症になるかなり前に「水分をとれ」と体が合図をする。

健康な人がより健康になる、というデータはない

1日に必要な水の摂取推奨量に正式なものはない(写真:Todd Heisler/The New York Times)

さまざまな説を聞いたことはあるだろう。しかし、健康な人が必要以上に多く水を飲んでも、健康に効果があるという科学的な証拠は存在しない。たとえば、水をたくさん飲めば肌が潤い、より健康的に見えて、しわも目立たなくなるという主張について、科学的な証拠は見つかっていない。

後ろ向き研究(すでに起きた症例を過去にさかのぼって調べる)のなかには、水分を多く摂取したことが、よりよい結果に結びついたという検証もあるが、因果関係は証明されていない。さらに、そのような研究では、「大量の」水の定義はコップ8杯よりはるかに少ない。

前向き研究(将来の健康被害や疾患の発生を追跡調査する)では、健康な人が水分の摂取量を増やしても、腎機能や、原因を問わない死亡率によい影響は見られなかった。ランダム化比較試験(治療群と対照群を無作為に分ける手法)でも、ある種類の腎臓結石の再発を防ぐなど特別の例外を除いて、よい影響は見られなかった。

「とにかく水を飲め」のウソ

本当の脱水症は、病気や過度の運動、発汗、水を飲めないことなどが原因で体内から大量の水分が奪われるもので、とても深刻だ。しかし、臨床的に脱水症と診断される人のほぼ全員が、具体的な症状を伴っている。

それでも大量の広告や報道が、事実とは異なる脱水症の恐怖を人々に信じ込ませている。日常的に飲み物を持ち歩く人の数は、年々増える一方だ。ペットボトル入りミネラルウォーターの売り上げも増え続けている。

今年の夏も脱水症が大きく注目された。その一因は、米公衆衛生学会ジャーナルに発表されたある論文だ。この論文は2009~2012年の全国健康栄養調査(米国)について、6~19歳4134人を対象とするデータに基づいている。特に、尿の濃度の目安とされる尿浸透圧に注目。尿浸透圧が高いほど、尿の濃度は濃いとされる。

論文によると、半分以上の子供は尿浸透圧が800mOsm/kg(mOsm=ミリオスモル)以上だった。さらに、1日237ミリリットル以上の水を飲む子供は、水の量が少ない子供より尿浸透圧が約8mOsm/kg低かった。

ここで、尿浸透圧が800mOsm/kg以上を「脱水症」と定義するなら、これは実に深刻な数字だ。実際、論文もその定義に基づいている。

問題は、大半の臨床医がそのように定義していないことだ。

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