ダニーは彼の言うとおりにした。とりあえず1日だけのつもりで。さっそく、おかしなやり取りが生じた。二重窓の無料見積もりを勧めるセールス電話に「はい、お願いします!」と返事したが、彼の家の窓はすでに二重窓だった。そう告げると、セールスマンは「それならなぜ『イエス』と言ったんですか?」と言って電話を切った。
誰もがする、安請け合いを後悔する経験
やがてこの小さな試みは、大きな挑戦へと変わっていく。ダニーは地下鉄で出会った男性からの「もっとイエスを」というささやかなアドバイスに対して、真剣に取り組むことにした。「全部」イエスと答えたら人生はどう変化するのか、5カ月半にわたって挑戦した。
5カ月半の間にはさまざまなことが起こった。13年落ちのミントグリーン色の日産車を買う羽目になったり(「乗ってみたら、おもちゃの車を運転するG.I.ジョーみたいだった」とは本人の弁)、スクラッチの宝くじで2万5000ポンド当てたりと思ったら削りすぎて無効。詐欺メールにも素直に対応してしまうなど……。
ここまで読んで思い当たる方もいるだろう。ジム・キャリー主演の映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(バジリコ)の原作はダニーの回想録だ。
あまり知られていないのだが、心理学者は自身の研究結果におもしろい名前をつけることがある。イェール大学でマーケティング学を教えるギャル・ザウバーマン教授とコロラド大学ボルダー校のジョン・リンチ教授は「イエス」と答えたものの悔いる傾向を「イエス→しまった! 案件(Yes/Damn Effect)」と名づけた。ぴったりのネーミングだ。
「イエス」と引き受けておきながら「しまった!」と後悔する経験は、誰でも覚えがあるだろう。「ノー」を選択肢から排除したせいで、あらゆる状況下で「イエス」と答え続けることになり、その結果クレジットカードの負債を抱えたり、バーで殴られそうになったり、抗うつ剤や育毛剤の処方せんなど、必要のないものを購入する羽目になる。
とはいえ、「イエス→しまった! 案件」は、必ずしもそうした直接的な(あるいは愚かな)結果をもたらすわけではない。
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