ある余命数年の患者は、死ぬこと以上に、あとに残す家族が苦しいときに力になることができないことのほうが苦しいと語る。その患者は余命短い中、それぞれの人生の節目に読んでもらおうと、家族に宛てて手紙を書くことにした。患者が家族にメッセージを残すという行動は、今では医療機関で緩和ケアとして採用されている。
UCLAのビジネススクールで教鞭をとる心理学者のハル・ハーシュフィールド氏は、彼の著作『「未来」から逆算する生き方』において、どんな人も未来を起点にこれからの人生を考えていくと、今現在の人生がますます充実すると語る。彼の研究の結論は「未来から人生を考えると、生き方が変わる」ということだ。
闘病中に口述筆記で手紙を書いていた父
アルネ・ヨハンセンは32歳のときに「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と診断された。体の筋肉がやせ、力が入らなくなっていく病気だ。余命はわずか数年。
4人の子どもの父親で、地域で積極的に活動し、子どもが所属するスポーツチームのコーチでもあった。診断時、一番年上の子ライアンは11歳だった。
ライアンと父親は多くの時間をともに過ごしていたが、ライアンは父が告知の直後からタイプライターで毎日何時間も手紙を書くようになったことに気がついていた。運動機能が衰えると(病気の進行は早かった)キーを打つのが難しくなる。1990年代初期はまだ口述筆記の技術が開発されていなかった。
やがてそうした機器を使ってもキーを打つことができなくなった。アルネの病は進行の一途をたどり、家族は看護師を自宅に雇う。アルネは看護師に口述筆記してもらい手紙を書き続けた。
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