ライアンは毎朝、父の様子を確認してから学校やサッカーの練習に行っていた。告知から約3年が経ったある日、ライアンは父が「旅立った」ことを知る。
危険な現場に配属されて浮かんだプラン
現在、サンフランシスコの南の小さな街、サンブルーノで警察署長を務めるライアンは、タフなメンタルを持つ男だが、あの瞬間は大きなショックを受けたと語る。
「誰でもそうだと思うのですが、父親の死を目の当たりにしたときのことは、一生忘れないでしょう」
ライアンが心を痛め、もっとも鮮明に記憶したのは、父の死ではなかった。
亡くなった父を発見したライアンは、すぐさま母親に伝えた。10分ほど経つと母は彼に1通の茶封筒を手渡した。それはアルネからの短い手紙だった。他のきょうだいや母でなく、自分だけに宛てられた手紙。それは短い一節ながら、父親が息子に対して渾身の力を振り絞って書いたものだ。
「若い私のもっともつらい時期、父親がそばにいてほしいのにそれがかなわない、そんな私の将来を考えてくれたんでしょうね」
手紙はこれだけではなかった。ライアンはその後、父から数多くの手紙を受け取ることになる。その中には「死ぬのが怖いわけではない」という言葉があった。告知を受けてすぐに現実を受け入れたのだという。
そう、死ぬのはつらくない。つらいのはこれから先、妻や子どもたちのそばにいてやれないことだ。彼らの悲しみを少しでも和らげてやりたいという思いから、アルネは手紙を書いた。子どもたちが将来体験するであろう、人生の貴重な瞬間宛てに。
アルネが遺した手紙は妻や他の子どもたち、他の人々に宛てたものも含めると、数十通に上る。
人がこの世を去っても、残された人々はつながりを感じ続けることができる。こうした手紙の存在は、それを強く思い出させてくれる。未来の自分、そしてその先に思いをはせたことで、アルネは自分のみならず、他の人々の未来の姿を形づくることができた。
この手紙をきっかけに、ライアンは会社を立ち上げることになる。20年前に警官の職に就き、サンディエゴ警察に配属されたライアンは、特に暴力事件が多発する地域の巡回を担当することになった。
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