資本主義の未来についての議論を大別すると以上の通りですが、もうひとつ別の、第3の道が加速主義と呼ばれるものです。
資本主義のプロセスを加速して、早く競争のない世界に
これは、根本的な社会変革を生み出すためには、今の資本主義をさらに加速すべきだというものです。なぜなら、資本主義を加速させることがその自己破壊のプロセスを早め、それによって資本主義の向こう側の世界に早く到達することが可能になるからです。
加速主義は、哲学者のジル・ドゥルーズと精神科医のフェリックス・ガタリが提唱した「脱領土化」の理論に依拠しています。普遍化した等価交換性を持つ貨幣というものを土台とした資本主義が持っている、それまでの慣習によって固定化された領土の外へと我々を逸脱させる力を利用しようという考え方です。
この加速主義を代表するのが、いわゆるペイパルマフィアと呼ばれる、ピーター・ティールやイーロン・マスク、マックス・レヴチンなどの、個人的自由と経済的自由の双方を至上の価値として掲げるリバタリアン(自由至上主義者)のグループです。
ティールはレッドオーシャンで戦うことの無駄を説き、経済活動における競争そのものを否定しています。テクノロジーを通じて資本主義のプロセスを加速して、早く競争のない世界に到達してしまおうという発想です。
そこにあるのは、ごく少数の選ばれた者だけが、資本主義という「マトリックス」を監視しながらコントロールするというバーチャルな世界です。その他大勢の人々は、メタバース(インターネット上に構築された参加型の仮想空間)の中で管理された夢を見ていればいいということです。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグは社名をメタに変更し、メタバース企業になると宣言しましたが、これも加速主義を象徴する動きだと言えます。
このように、シンギュラリティ(技術的特異点)の先にマトリックス的世界を想定する加速主義の運動を理論面から支えているのが、「加速主義の父」と呼ばれる右派加速主義理論家のニック・ランドです。ランドらが主導する「新反動主義」あるいは「暗黒啓蒙」と呼ばれる思想運動の根底にあるのは、「自由と民主主義は両立しない」という信念です。
こうした右派加速主義の発想は、ヨーゼフ・シュンペーターが『資本主義・社会主義・民主主義』の中で、資本主義は成功しすぎるがゆえに官僚化した巨大企業の独占状態を招いて終焉すると言ったのと似たようなロジックに立脚していると言えるかもしれません。
これに対して、マルクスは唯物史観に基づき資本主義は崩壊すると予言しましたが、崩壊のスピードを早めようとしたという意味では、マルクスも加速主義の立場をとっていたと言えます。
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