全世界化した資本主義が向かう「3つのシナリオ」 現代の「知性」は資本主義の暴走を止められるか

✎ 1〜 ✎ 18 ✎ 19 ✎ 20 ✎ 21
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

こうした修正資本主義の動きに対し、それらは見せかけだけのポーズにすぎず、「SDGsは現代のアヘン」だとして、脱成長・脱資本主義を訴えているのが東京大学准教授の斎藤幸平です。フンボルト大学哲学科で博士を取得し、マルクス研究で最高峰のドイッチャー記念賞を歴代最年少の31歳で受賞した斎藤の『人新世の「資本論」』は55万部を超えるベストセラーとなり、世界中で翻訳され読まれています。

斎藤は、MEGAプロジェクトの日本人ただ一人の参加者であり、マルクス=ソ連型の共産主義というステレオタイプの理解を退け、マルクスが晩年に打ち込んだ循環型社会の実現可能性を探っています。

『コモンの「自治」論』に見られる斎藤が構想する社会は、コミュニティ(地域共同体)を中心とした「コミュニティ・イズム」と呼ぶべき人間中心のもので、宇沢の「社会的共通資本」や誰もが自由に利用でき、占有が許されない空間である「コモンズ」の概念に近いものです。したがって、私たちが連想するコミュニズム(共産主義)とは内容がかなり異なりますが、本人はこれを「コミュニズム」と呼んでいます。

自然発生的な「脱」市場経済の可能性

こうした斎藤の活動に対して、上述の安田が興味深い指摘をしています。安田自身は近代経済学の最先端を行く経済学者ですが、今の資本主義が完全であるとも市場メカニズムが完璧に機能しているとも考えていません。

その意味で修正資本主義の立場なのですが、市場の失敗に当たる部分については、物々交換市場などの新しいマーケットをデザインすることで、自然発生的に生まれた今の市場取引を補完するといった、ある意味で計画経済的な取引市場が作れるのではないかと考えています。

これは、斎藤が資本主義を否定する一方で、ソ連のような共産主義的な計画経済を志向するのではなく、コモンズ的な自然発生的な経済を市場経済に代わるものとして打ち出しているのとちょうど逆方向からのアプローチで、結果的に両者は同じ着地点に向かっているのではないかというのです。

確かに、ここまで来ると資本主義の中か外かという議論は、あまり大きな意味は持たないかもしれません。どちらも今の資本主義に代わる、あるいはそれを修正する仕組みを構想している訳ですから。

斎藤は、2008年のリーマンショック後に資本主義が消滅したパラレルワールドを描いたヤニス・バルファキスの近著『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』の帯に「株式市場をぶっ壊せ」と推薦文を寄せています。

ですから、やはり額面通り「脱」資本主義を目指しているのかもしれませんが、「3.5%の市民が本気で立ち上がれば社会は変わる」と訴える斎藤の今後の活動には、引き続き注目していきたいと思います。

次ページ加速主義という「第三の道」
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事