40歳から栄一の研究を開始。今に通じるメッセージに魅入られてきた。
──1万円札の束はタンス預金を連想させますが、タンス預金は渋沢栄一の考えとは対極にあります。
代表的な著作である『論語と算盤(そろばん)』の中で、栄一は「真に理財に長ずる人は、よく集むると同時によく散ずるようでなくてはならぬ」と言っている。
お金を集めるだけじゃダメで使うことで社会に循環させましょう、と。それは消費でも、寄付でも、投資でもいい。要するにお金は流通させなければならない。
『論語と算盤』は1916(大正5)年の出版だが、1873(明治6)年に第一国立銀行を立ち上げた際にも似たような発言をしている。
銀行は川のようなもので、一つひとつのしずくが集まることで大河になる。そこで初めて力が生じて、新しい時代を生み出すことができる、と説明した。これこそが栄一が考えた「合本(がっぽん)主義」だった。
今は1000兆円以上の現預金が、大河ではなくて巨大なため池として至る所で滞留している。いわゆるタンス預金だけで59兆円もあるといわれている。100万円の札束の厚さが1センチメートルと考えると、590キロメートルの高さになるわけで宇宙に届く距離だ。今回、新しい1万円札になったことを機に、「よく散ぜよ」という栄一のメッセージが見直されるようになれば、と思う。
新しい資本主義と親和的
──岸田文雄政権が提唱する「新しい資本主義」は、渋沢資本主義と相性がよさそうです。
「新しい資本主義」の議論の中心にある「成長と分配の好循環」は、まさに「よく集め、よく散ぜよ」だ。
また、「新しい資本主義」はインパクト、つまり社会的・環境的な変化や効果という概念を前面に打ち出しているが、これも栄一にとっては当たり前のことだったはずだ。
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