「ステージ4」膵臓がん患者が沖縄に"旅立つ"心境 旅先で最期を迎えることになるかもしれない

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3日間で全行程約1週間の旅の準備だ。それでなくても目が回るようなスケジュールである。加えて、愛里さんは身重だ。どうしても神経が高ぶることもあった。

「妹と喧嘩になることもありました。2人で泣きながら準備をしたのを覚えています」

担当医の本心

しかし、担当医はなぜ、飛行機での旅行を許可しなかったのだろう。稲本さんの沖縄旅行に付き添うことになった日本ツアーナースセンターの細山看護師は次のように語る。

「ストレッチャーや酸素吸入機、点滴などの医療機器を航空機内で使う場合は、メディカル・インフォメーション・フォーム(MEDIF)という書類に医師のサインをもらう必要があります。それを航空会社に提出したうえで、航空会社が搭乗可能かどうかを判断します。

稲本さんの担当医師は、そのMEDIFにサインはしてくれませんでしたが、稲本さんの診断書や診療情報提供書などは、日本ツアーナースセンターのほうに提出してくれました」(細山看護師)

関東から沖縄まで、2000キロメートルの行程だ。がん末期の患者に対して負担はあまりにも大きい。気圧の変化などもある飛行機の旅は許可できなかったのかもしれない。ただ、稲本さん家族の意思は固かった。医師にもその気持ちを後押ししたいという思いがどこかにあったのだろう。旅に必要な書類の提出は拒まなかった。

「今考えると、担当の先生が仮にMEDIFにサインをしてくれたとしても、航空会社は搭乗を許可しなかったかもしれません。それほど、稲本さんの病状は一刻一秒を争う状態でした」(細山看護師)

宿泊するホテル。父の体にあった車いすのレンタル、介護タクシーと新幹線、フェリーの予約。ツアーナースと現地での訪問看護師の確保。わずか3日間で、これらの準備をやり遂げた。

自分たちの着替えや、秀俊さんの医療機器などをバタバタと準備し、2023年の2月下旬、秀俊さんと妻の菜々子さん、次女の愛里さんと、三女の翔子さん。

そしてツアーナースの細山看護師。5人での沖縄旅行がスタートした。前にも書いた通り、長女は体調不良で残念ながら旅に参加することはできなかった。

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