脳梗塞の老人を大移動させたツアーナースの苦悩 後遺症で言葉が話せない84歳男性の長距離移動

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ツアーナース
介護タクシーで葛飾区の病院から東京駅まで向かう(写真はケアミックス提供)
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ツアーナース(旅行看護師)と呼ばれる看護師たちの存在をご存じでしょうか?
「最期の旅行を楽しみたい」「病気の母を、近くに呼び寄せたい」など、さまざまな依頼を受け、旅行や移動に付き添うのがその仕事です。
連載第3回は、82歳で脳梗塞に倒れ、後遺症で言葉を失った男性の物語。東京から娘が待つ滋賀県へ、ツアーナースとともに帰郷します(本記事は「日本ツアーナースセンター」の協力を得て制作しています)。

脳梗塞で倒れた84歳男性の行く先

東京発博多行きの新幹線が、静岡県に入ったころ、中島五郎さん(84・仮名)は、浅い眠りから覚めた。新幹線の多目的室は、1.5メートル×2メートルほどの広さだ。

体が不自由な人が車いすごと乗り込みたい場合や、授乳が必要な人のために用意された部屋である。畳1枚分程度の簡易ベッドはあるが、中島さんは乗ってきた車いすをリクライニング状態にして、眠っていた。

朝早く、東京都葛飾区の病院から介護タクシーで出発し、東京駅に到着したころは、かなり疲れた表情をしていた中島さんだったが、少し眠ったおかげで、目元に生気が戻っていた。

ツアーナースの髙橋博美は、昨晩用意しておいたマルチグローブを、救護セットが詰まったバッグから取り出した。

マルチグローブとは、ナイロン製の大きな袋のような形状をした福祉用具だ。介助者は、これを両手の肩口まですっぽり差し込んで使う。

ツルツルした素材のナイロン製なので、寝ている患者の背中の下にスルリと滑り込ませることができる。これを使って、体位変換を促したり、体の1カ所に体重が集中しないよう、圧力を逃がすために体を浮かせたりする。床ずれの予防に有効だ。病院や介護施設などで使われている。

「中島さん、少しだけ背中をマッサージさせてくださいね」

髙橋看護師が話しかけると、中島さんは口元だけでぎこちなく微笑んだ。

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