「ステージ4」膵臓がん患者が沖縄に"旅立つ"心境 旅先で最期を迎えることになるかもしれない

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沖縄でなくても家族の思い出の場所は他にもあるかもしれない。海が見たいのであれば、近くに適した場所があるかもしれない。様々な可能性を考慮して、看護師としての意見を述べた。しかし、愛里さんの決心は固かった。

──お父さんの思いを叶えたい。

その強い意思を感じた細山看護師は、最後まで支えることを決心したのだった。

沖縄旅行の計画は4泊5日の日程を組んだ。ホテルの予約はすんなり終わった。問題は行きと帰りの移動だ。今回は電車と船の旅である。片道30時間もかかる。自宅から新横浜までの介護タクシー。新横浜から小倉までは東海道新幹線。そこから鹿児島までは九州新幹線。列車の旅では、それぞれ多目的室の予約が必要だ 。それらもなんとか手配することができた。しかしそれだけでは済まない。

鹿児島から沖縄までの行き帰りはフェリーでの移動となる。その船中泊も合わせると、7日間の長旅となるわけだが、ツアーナースは医療保険がきかない 。旅行の間ずっとツアーナースがつきっきりでは費用がかさんでしまう。

「だから、沖縄にいる4日間は、医療保険が使える現地の訪問看護をお願いするといいですよって、細山さんにアドバイスをもらったんです」(愛里さん)

ツアーナース 小倉
小倉(提供写真)

そうすれば、自費となるツアーナース費用は、行き帰りの2日分だけで済ませることができる。ただ、沖縄の訪問看護師に知り合いがいるわけではない。愛里さんは片っ端から電話をかけて、4日間だけ通ってくれる訪問看護師を探した。

そしてたどり着いたのが、「ひまわり訪問看護ステーション(沖縄県国頭郡)」だった。

「ホテルからもそれほど離れておらず行き来できる場所にあり 、電話をかけて事情を話したら快諾してくれました」(愛里さん)

同ステーション代表の豊里泰子さんの話。

「最初ご連絡をいただいたときには、終末期の方ということで、少し驚いたのですが、状況を把握するするツアーナースもいらっしゃるということで、安心しました」

稲本家の旅の準備は、着々と進んでいく

当時、愛里さんは、大学時代から交際していた人と結婚し、妊娠6カ月の状態だった。姉は体調が悪く、旅行の準備に参加することはできない。母に父の看病を任せ、旅の行程のあれこれについては、愛里さんを中心に妹と2人で準備を進めた。主治医には「行くなら早いほうがいい」と言われていた。

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