小泉今日子×福岡伸一「"アイドル"と動的平衡」 どんどん壊して、新しくつくり変えていく

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その幼虫はだんだん大きくなるんですけど、ある程度丸々と太ったら、サナギになりますね。でも、サナギのなかで何が起きているのかというのを少年時代のハカセは知りたかった。

それで残酷なんだけど、開けて調べてみたら、真っ黒などろどろの液体となって溶けている状態でした。もう、幼虫がいったん完全に破壊されちゃってるの。

小泉 へえ、それは考えたこともなかったです。

先回りして壊してから新しいものをつくる

福岡 いま考えると申し訳ないけれど、サナギを開けちゃうと、死んじゃうんです。もちろん開けないことがほとんどですよ。

開けずに待っていると、その真っ黒などろどろの状態のなかからあんなきれいなチョウが生まれるんです。それで、創造に先立つ破壊があるということが自然なんだなっていうことを何となく感じたわけ。

そうした経験から、生物学を勉強したいなと思ったんですけれども、大学に入ってみると「チョウとかきれいな昆虫とかを追いかけている場合じゃありません」という状況でした。

かわりに、分子生物学の潮流が満ちてきた時代だったのでそっちのほうに入っていっちゃったんです。

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これは細胞のなかの遺伝子とかタンパク質というミクロなレベルでデジタル的に生命を解析する学問なんですね。

遺伝子のことについては、その後、20年ぐらいでヒトゲノム計画というのが完成されて、遺伝子を端から端まで全部解析して、そこには細胞のなかで使われているタンパク質、2万種類ぐらいの設計図が全部描きこまれているということがわかったんです。

でも、生命のことについて何がわかったかというと「何もわからないっていうこと」がわかったんです。

そこでやっぱり、生命というのを考えるときに大事なことは何かなといったら、破壊することというか、先回りして壊して、その後で新しいものをつくるところにあるんじゃないかなって。

だから、単に入れ替わるという話じゃないんですね。

小泉 新陳代謝という意味での入れ替わりということではないんですね。

福岡 ええ。もっと積極的なものだということですね。

福岡 伸一 生物学者、青山学院大学教授、ロックフェラー大学客員教授

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ふくおかしんいち / Shin-Ichi Fukuoka

京都大学卒および同大学院博士課程修了。ハーバード大学研修員、京都大学助教授などを経て、現職。サントリー学芸賞を受賞し、87万部のロングセラーとなった『生物と無生物のあいだ』や、『動的平衡』シリーズなど、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。近著に『迷走生活の方法』『生命海流』などがある。

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小泉 今日子 歌手、俳優、プロデューサー

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こいずみ きょうこ / Kyoko Koizumi

1966年神奈川県生まれ。82年に歌手としてデビューし数々のヒット曲を放つ。俳優としても活躍しドラマ、映画、舞台に多数出演。文筆家としての評価も高く、2005年から10年間、読売新聞の読書委員を務め、17年には著書『黄色いマンション 黒い猫』にて第33回講談社エッセイ賞を受賞。15 年「株式会社明後日」を立ち上げ、舞台、映像、音楽、出版などジャンルを問わずさまざまなエンターテイメント作品の企画、プロデュースを行っている。20年から23年までSpotifyオリジナル・ボッドキャスト番組『ホントのコイズミさん』を毎週配信、21 年には上田ケンジと音楽ユニット「黒猫同盟」を結成するなど、多角的に活動している。

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