小泉今日子×福岡伸一「"アイドル"と動的平衡」 どんどん壊して、新しくつくり変えていく
福岡 そうなんですよ。だから、昨日の私と今日の私では、細胞レベルでは違うし、数カ月たつと、もうかなり違っている。
一年前に私をつくっていた物質は、いま、ほとんど残っていない。骨とか歯みたいにかちっとしているところでも中身がすごい速度で入れ替わっているので別人といっていいわけですね。
だから、久しぶりに会った人に「お久しぶりですね、まったくお変わりありませんね」などというけれど、生物学的には間違っているんです。
小泉 お変わりはあるんですね(笑)。
福岡 お変わりはありまくりですね(笑)。だから、約束なんか守らなくていいんです。
小泉 あはは(笑)。実際のところは、私も約束したらできるかぎりその場所に行こうとは思いますよ。
でも、行きたくないと感じることがおかしなことではないと思えるだけで、気が晴れます。
「動的平衡」と新陳代謝
福岡 先日、元プロボクサーの村田諒太さんと対談しまして、その際に「動的平衡って、新陳代謝と同じことですか?」と訊かれました。
で、それは違いますと答えたんです。単に入れ替わっているんじゃないんですね。古いものがいらなくなったから捨てられる、古い細胞が死んで新しい細胞ができるという、そういう、単なるチェンジじゃないんだと。
生命体は率先して、先回りして壊しているわけです。放っておくと壊れてしまうものを先回りして壊すことで崩壊を逃れている。
「エントロピー増大の法則」という難しい言葉があります。簡単にいうと、万物はすべて、放っておくと拡散し、無秩序な方向に進み、その逆はないという法則。
無生物はただそれに従っているだけなんだけれど、生命体は率先して自らの一部を壊すことで、その法則に抗っている。
あらゆるものを、まだできたてほやほやで使えるにもかかわらず、どんどん壊して新しくつくり変えているんですね。
それが私の生命論で、動的平衡の理論です。