日米の心理学者が語る「内なる声」の驚異の力 アスリートも実践する「自分と距離を置く」方法

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クロス:説得力のあるお話ですね。本書の願いの1つは、チャッターを、誰にでもある普通の経験として捉えてもらうことです。頭の中で何が起きているかは、他人には分かりません。

でも、ビジネスパーソン向けのワークショップで、「チャッターの無限ループを体験したときのことを話してください」とお願いすると、たちまちディスカッションが止まらなくなり、みなさん気持ちが通じ合います。

田中ウルヴェ京氏
スポーツ心理学者で五輪メダリストの田中ウルヴェ京氏(撮影:今井康一)

田中:チャッターが始まったとき、私の頭のなかには、3人の「ミヤコ」がいます。1人はいつも優しく励ましてくれる「エンジェル・ミヤコ」。ほかに、常に攻撃的に話しまくる「デビル・ミヤコ」、なんでも判定しようとする「ジャッジ・ミヤコ」がいます。

私にとって効果があるのは、エンジェルの自分が「ミヤコ、えらい」と自分に言い聞かせることですね。

クロス:3つの声があるというのは、興味深いですね。たいてい、2つの声があり、ネガティブな声は、ポジティブな声よりはるかに大きくて横暴になっていきます。

本書の存在価値は、「ネガティブな声が大きくなりすぎたら、どうするか」というロードマップを示すことです。ネガティブな声の音量を下げる方法を知っておくことが大切なのです。

自分の筋肉に話しかける

田中:アスリート時代は、よく自分の筋肉にも話しかけていました。

シンクロナイズドスイミング(現在の競技名はアーティスティックスイミング)は、息を長く止めて水中で足技をし続ける競技で本当に疲れるのですが、練習中などは水中で逆さまになりながら「ガンバレ、ガンバレ」と筋肉細胞に声をかけました。

つま先にも話しかけていましたよ。「おーい、つま先、元気? よくやってるね。ガンバレ」と。

クロス:距離を置くという方法ですね。状況に没頭しすぎて悪影響があるときに、精神的なゆとりを得て、離れたところから自分を振り返る。有益なツールですね。

例えば、人は病気になるとこう言います。「私は何も悪くない。悪いのは病魔だ。ここから出て行け。お前に私は倒せない」。自分で自分を有害な要素から切り離すのです。

クロス:田中さんは、選手を引退後、スポーツ心理学の道に入って博士号をとられましたね。

田中:それが長年の夢でした。博士号をとればようやく自分が自分のことを認められる、人生が変わるかもしれないと思ったのです。私は「元五輪選手」と呼ばれる自分のことがあまり好きではありませんでした。もう35年も前のことですから。

クロス:それだけがあなたではありませんからね。

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