AI技術の進化で「教養」の価値は失われるのか AI研究の第一人者が語る「学ぶことの意味」

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松尾:「人間型知能」では見えないものの見方や定式化の方法などが絶対にあるはずで、ひとことで言うと、人間はそれほど頭が良くないのです。限られた変数しか扱えないのですね。世界はいろいろなものの相互作用によって成り立っていて、それを解明するには多くの変数を扱うモデルが必要になりますが、われわれの頭では、それを見つけられていないものがたくさんあります。

そういったことが、これまでに得られたディープラーニングの研究の知見で説明できる部分というのはかなり多いです。また、われわれの言語能力というのはいったい何なのかとか、いろいろなものを知ることで見え方が変わってくるという話とも関係するのですが、そういうことがなぜ起こるのかなどもいずれ説明できるはずです。あとは理性や自由意志のようなある種の錯覚がなぜ起こるのかも説明できるようになると思います。

さらには、進化の過程で、どういうタイミングで何が起こったから人間的な知能を持つに至ったかということもある程度説明できますし、そういう意味では「われわれは何者で、どこへ行くのか」ということを説明できることになると思います。

知能を高めるために身体性は必要か

堀内:知能と身体の関係についてはどのようにお考えでしょうか。肉体があるからこそ知能がある、肉体を持っていることによって人間は学び、知識、知能を高めていくという、ある種のフィードバック・ループみたいなものがあるという考え方もあると思うのですが。身体があるということは、松尾さんの人工知能研究の中ではどのように捉えられているのでしょうか。

松尾:私は2017年頃から「身体性が必要派」から「必要ない派」に変わり、現在は知能において身体性は必要ないという立場です。というのは、「人間型知能」においては、自己保存や自己再生が暗黙に仮定されていることが多く、身体は必然になります。しかし、知能とは世界をモデル化し、予測の能力を上げることであると仮定すると、AlphaGoが囲碁の世界のみを想定しているように、目的に応じた世界の捉え方があり、目的によっては必ずしも身体性を必要としないと思っています。

結局、生命にとっての知能は、いくら世界をモデル化しても、最終的に身体をどう動かすかということが重要で、身体は必然になります。また、身体性があったほうが環境との相互作用によって学習が早くなる場合がほとんどなので、身体性があるのは得なのです。そして、われわれ自身がそうであるがゆえに、その見方から逃れにくいわけです。ところが、目的はさまざまにあり得ますし、また、インターネット上のようにデータがたくさんできれば、身体性がなくても学習はでき、世界のモデル化はできます。そういう意味では対象とする知能を「人間型知能」としない場合は、身体性はあったほうがよいかもしれないけれど必須ではないということになります。

堀内:なるほど、知能をどう捉えるかという見方次第なのですね。

松尾:私もずっと「人間型知能」を前提に考えてきたので身体性が必要と考えてきたのですが、現在では、必ずしも身体性が必要とは思わなくなりました。でも、いろいろな考え方があっていいと思いますし、人工知能の分野では伝統的な、面白い論点だと思います。

(構成・文:中島はるな)

松尾 豊 東京大学教授

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まつおゆたか / Yutaka Matsuo

1975年香川県生まれ。1997年に東京大学工学部電子情報工学科卒業。東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻博士課程修了。独立行政法人産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学CSLI客員研究員を経て、2019年から東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授。2017年、日本ディープラーニング協会理事長。2019年、ソフトバンクグループ株式会社取締役(社外)。2021年、新しい資本主義実現会議有識者構成員。2023年、AI戦略会議座長。人工知能研究の第一人者であり、ビジネス界においても注目されている。著書に『人工知能は人間を超えるか︱ディープラーニングの先にあるもの』(KADOKAWA)など。

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堀内 勉 多摩大学社会的投資研究所教授・副所長、HONZ

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ほりうち つとむ / Tsutomu Horiuchi

外資系証券を経て大手不動産会社でCFOも務めた人物。自ら資本主義の教養学公開講座を主催するほど経済・ファイナンス分野に明るい一方で、科学や芸術分野にも精通し、読書のストライクゾーンは幅広い。

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