「倍速消費」並みになった合意形成のスピード感 政策が次々と「検討なく」決められている理由

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中野:「インボイスでも止めてみろ」とか、「東京オリンピックや万博をやめてみろ」って言われて実行したとしても、誰もやめたことを評価せずに、単にブレた責任を追及されて引きずり下ろされるだけ、というオチが見えている。じゃあ、やめないで、反対の意見を聞いて修正するとしたら、今度は「玉虫色の解決」って批判するんじゃないですか。つまり、政治家の肩を持つわけじゃないけど、彼らも気の毒で、どうやっても批判されて勝ち目がない。

つまり、国民が「さっさと決めてくれ」と思っているから、政治家は合意形成を急ごうとして、反対派を黙らせて、多数決で押し切ろうとしているわけですね。

真に足りないのは自由主義だ

中野:例えば財政健全化だって、多数派のほうが私を押し切ろうとしているわけですよ。この場合、合意形成を妨げているのは私ですから、「合意形成を急ぐから、中野は黙れ。ルール上多数決なんだから、少数派のお前だって多数決のルールは受け入れているだろ?」って黙らせられるわけ。だから、本当の問題は合意形成を急いでいることであって、合意形成がなされた議論が正しいとか、議論が中庸化されるという保証は何もない。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)などがある(撮影:尾形文繁)

あと、佐藤さんがおっしゃるように、私も「過剰」という言葉は気にいらない。ですが、この「過剰」という言葉も合意形成のために使われている節があって、コロナ禍の自粛を巡る論争を例にとって言えば、「過剰な自粛はあなただって反対ですよね。だったら、お互い、意見の違いはないですね」と言って、合意に達したという体にして、論争自体を封じ込めようとする。財政出動についても、財政破綻するかしないかの議論を避けて、「どこに支出するのか、必要な支出先を議論しよう」と言う論点にすりかえようとする。無駄な投資はみんな反対に決まっていますから、その論点であれば、合意は簡単に形成できます。そうやって合意形成をむしろ急ぐことで議論を封殺しているんじゃないのでしょうか。

ある意味、合意形成のほうが民主主義で、議論のほうが自由主義だとしたら、自由民主主義はそもそも矛盾している側面がある。正しい意見はどれなのかとか、少数派の意見も尊重しましょう、というのは合意形成の「民主主義」というよりは、議論の「自由主義」です。したがって、足りないのは合意形成ではなく、自由主義が足りないんじゃないかっていう感じがしています。

もう一つ問題提起したいのは、この合意形成を急ぎすぎる傾向がどうして強まっていくかの仮説です。確かに佐藤さんがおっしゃるように、どんどん合意形成を放棄して、私の言い方をすれば合意形成をとにかく急ぐ。急ぐこと自体については合意が形成されているという状況。昔の消費税の議論と今の議論の違いは、コスパと同じなんですけど、スピード感ではないか。

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