加速主義が生み出す「頭でっかちな認知エリート」 ナショナリズムがインテリたちに不人気な理由

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エリートたちが「地方」と「子ども」を切り捨てる理由とは(写真:w-ken0510/PIXTA)
本来であれば格差問題の解決に取り組むべきリベラルが、なぜ「新自由主義」を利するような「脱成長」論の罠にはまるのか。自由主義の旗手アメリカは、覇権の衰えとともにどこに向かうのか。グローバリズムとナショナリズムのあるべきバランスはどのようなものか。「令和の新教養」シリーズなどを大幅加筆し、2020年代の重要テーマを論じた『新自由主義と脱成長をもうやめる』が、このほど上梓された。同書の筆者でもある中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)の各氏が、「社会的な合意形成」と「自由民主主義」について論じた座談会の第2回をお届けする(第1回はこちら、全3回)。

加速主義と認知資本主義

佐藤:現在の世界において、先進国の大部分は自由民主主義を標榜しています。しかし合意形成や意志決定を速くすれば上手くいくと考える「加速主義」が、それらの国々で台頭するに至った。近年はとりわけ、その傾向が顕著です。

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するとまず、自由民主主義の“自由”の部分がムダ、ないし「過剰」に思えてくる。そんなにゆっくり議論していられるかという話です。すると”民主”の部分はどうなるか。誰か代表を選出して、その人に全部一任しましょうという話になる。

こうすれば、確かにスピード感のある民主主義ができあがる。ただしそれは、実質的な独裁政治の容認なのです。

中野:加速主義で全部を説明するつもりはありませんが、例えば少子化は確かに加速主義の影響かなと思っています。子どもを生むのも育てるのも時間がかかる。だから、加速すると一番できないのが子どもだったりするのかなって。

佐藤:それについては、東洋経済から2001年に出した『未来喪失』で書きましたよ。結局、最終的な壁はそこだと。妊娠から出産までの時間は短縮できない。

中野:だから、どんどん「待て」なくなっている。例えば妊娠だって、昔と違って、女性は産後、職場復帰することが多くなった。最低でも2~3カ月は休む必要がある。だけどその短い期間でも、職場で置いていかれるかもしれないって心配するほど、世の中のスピードが速くなっている。子どもの成長や、議論に必要な時間なんかを考えると、人間の生理的なペースと、今の社会のペースが合ってない気がする。「認知資本主義」という言葉を聞いたことがありますが、確かに、認知能力だけが速くなっているけれど、それ以外の部分ではついていけなくて、それが色々な問題を引き起こしている可能性がある。

でも、妊娠の10カ月なんか典型ですけど、絶対解決できないこともある。これはもしかしたら、19世紀ぐらいから始まっていたのかもしれない。産業化が進んで本来の人間らしさから遠ざかっていて、農業をしていた頃のゆったりした時間感覚が失われてきているという話です。

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