加速主義が生み出す「頭でっかちな認知エリート」 ナショナリズムがインテリたちに不人気な理由

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中野:シリコンバレーの認知エリートの影響で政治がめちゃくちゃになっていくという話で言うと、アメリカは大統領選を、トランプという認知が歪んでいる高齢者と、バイデンという認知の問題が疑われている高齢者とで争っているわけですよ。認知資本主義の行き着く先が、認知に問題がある大統領候補二人の争いという(笑)。

佐藤:ただしどちらが勝っても、アメリカの覇権衰退を引き受けねばならないのは同じ。となると政策の根本も、選挙結果によらず大きくは変わらないのではないか。

中野:だから、合意形成はなされているのですよ。

佐藤:「近代の没落」という20世紀以降の流れを止められず、文明の処理速度だけを上げてきたツケが、いよいよ回ってきたわけですね。

認知資本主義の究極は「肉体の否定」だ

中野:そういう意味では、認知エリート、覚醒存在の側ではなく、現存在、つまり大地のほうから大きな反発が来るような感じがするんですよね。

佐藤:『感染の令和』で書きましたが、コロナのパンデミックはまさにそれです。地球の生態系が、各国のボディ・ポリティックを病んだものにすることで、近代文明の暴走を抑え込みにかかった、そう解釈するとじつによくわかる。

中野:なるほど、そうだ! 気候変動も認知資本主義ではどうにもならない問題ですよ。現在、エネルギーや食料、原材料、労働力が希少化してインフレになっています。認知資本主義では、物質的なものの不足の問題は過去のものと見なしがちですが、実際はそうではない。メタバースで儲けよう的な話が出てきますが、メタバース以前に、ユニバースの基本的なニーズが満たされなくなっている。ウクライナの戦争では大砲を撃っているとか、塹壕を掘っている。アメリカではトランプが再び台頭するかもしれない。21世紀の認知資本主義が夢見ていたものと完全に逆のことが起きている。

佐藤:認知資本主義の究極の目標は、ずばり肉体の否定です。『2001年宇宙の旅』の共作者、アーサー・C・クラークが名言を吐いていますよ。いわく、「知的存在として見た場合、人間はまだ低レベルだが、生物としての進化はあらかた終わっている。真の知的存在は肉体の有限性を克服しているはずであり、すなわち『生き物』ではない」。

中野:AIだ。

佐藤:いや、機械化された知性でもせいぜい中間形態。真のゴールは、物理的な制約を完全に超越して、不滅の意識となることです。

20世紀前半のフランスを代表する劇作家ジャン・ジロドゥも、「人間とは、ずばり人間を超えようとする試みである」と書きました。で、台詞はこう続きます。「この試みの目的は、けがれた世界から人間を隔離することだ。それを達成する手段は二つ、名づけて政治と義務教育」。これこそ近代の本質です。

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