加速主義が生み出す「頭でっかちな認知エリート」 ナショナリズムがインテリたちに不人気な理由

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佐藤:「覚醒存在」という表現自体、じつは非常に面白い。英語では覚醒剤を「スピード」と呼ぶんです。服用すると脳神経系が活性化して、しばらくの間は寝る必要もない。その代わり、体はボロボロになる。

中野:「現存在」がおかしくなってるんですよね。認知エリートが増えることは、シュペングラーに言わせれば、それこそ「文明の没落」そのもの。

近代文明をめぐる神話が崩壊した20世紀

佐藤:ただし認知エリートの知的空洞化が進んだのには、テクノロジーの進歩による世界全体の加速化とは別の要因もあると思います。つまり「近代文明は世界を豊かで幸せにする」という神話の崩壊。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家・作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。1990年代以来、多角的な視点に基づく独自の評論活動を展開。『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『新訳 フランス革命の省察』(PHP研究所)をはじめ、著書・訳書多数。さらに2019年より、経営科学出版でオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻を経て、現在『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻が制作されている(写真:佐藤健志) 

第1回の座談会で、消費税の導入には10年かかったという話をしましたが、じつはこの導入論議、「戦後批判の神話」とも言うべきものに支えられていました。敗戦以来、わが国は新しい国づくりを目指したわけですが、高度成長の終焉でまた挫折した。そこで「今までの福祉国家路線は間違っていた。新自由主義的な改革を推進すれば社会に活力が戻り、さらなる繁栄が達成される」という神話が生まれたのです。

こうして「財政再建と格差容認」の方向性が打ち出される。しかるに格差を容認するのなら、累進性のある税を引き下げて、逆進性のある税で置き換えるのが望ましい。消費税が導入されたのも道理ではありませんか。

消費税の神話的背景については、2021年に刊行した『感染の令和』(KKベストセラーズ)や、オンライン講座『日本を救う主権への回帰』(経営科学出版)でじっくり論じたので、詳細はそちらをご覧いただきたいのですが、さすがに平成も後半になると、「新自由主義的改革による繁栄」という神話が崩壊を始めた。ところが今回は、それに代わる新たな神話が出てこない。

となれば現実を否認して「物事はうまく行っている、成果はちゃんと上がっている」と言い張りたくなるのが人情。しかしこれでは、自由な議論などできるはずがない。だから意見をすり合わせるふりだけして、意固地に突き進むのが政権運営の処世術となった。すべては必然の帰結という次第です。

世界的に見ても、20世紀は近代文明をめぐる神話が崩れだした時代でした。「ヒトラーには英雄の晴れやかさがない。ヒトラーは20世紀そのもののように暗い」と言ったのは三島由紀夫ですが、われわれは当の暗さをどうにもできないまま21世紀に入り込んでいる。それでテクノロジーのレベルだけ上がっていったら、認知エリートもおかしくなりますよ。

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