「功利」を克服するために改良されてきた中国思想
中野:最初に大場さんから、ご著書『武器としての「中国思想」』の趣旨や執筆の意図などについて、お話をお聞かせ願えますでしょうか。
大場:わかりました。まず、この本を書いた動機は、基本的には中国思想が現代において、はたして使えるのかという、しごく単純なものです。また、「個の確立」が社会を成立させて動かすのである、というテーマのもとで執筆しております。
思想以前の「功利」というものが社会を覆って、つねに人々を動かしている。その中でそれを克服するために思想というものがいかに誕生して、どのようにブラッシュアップをされていったのか。
ここにおいて大事な思想史として、古代の孔子や孟子は政治的な議論と、修養による「個」の確立を説きましたが、中世の漢や唐までは政治的な議論ばかり注目されていました。
しかしながら、近世に登場した朱子学、陽明学になって、1人ひとりの生き方を通じて、どのように世界にアプローチを仕掛けていくかという問題意識に移行しはじめます。そこで初めて思想的な問題において、「個」の確立に焦点を当てるという、流れがつくられました。こちらを1つの筋として、本書では執筆をしております。