「日本の民主主義」は中国思想と深く関わっている 儒教の精神は「封建主義」ではなく「個の確立」だ

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中野:ちなみに今おっしゃられた、中国思想観というのは、中国思想、儒学研究のオーソドックスな考え方なんですか、それとも大場さんの解釈なのでしょうか。

大場:これは基本的にはオーソドックスな解釈になります。

中野:わかりました。ありがとうございます。では、今のお話や書籍の内容を受けて、古川さんのご意見をうかがえますでしょうか。

日本の民主主義の源流は儒教だ

古川:はい。まず、個人的な雑談で恐縮なんですが、私は教育学者という肩書になっていますが、実は教育学部に入る前に、文学部の東洋史学科を卒業しています。

古川 雄嗣(ふるかわ ゆうじ)/教育学者、北海道教育大学旭川校准教授。1978年、三重県生まれ。京都大学文学部および教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。専門は、教育哲学、道徳教育。著書に『偶然と運命――九鬼周造の倫理学』(ナカニシヤ出版、2015年)、『大人の道徳:西洋近代思想を問い直す』(東洋経済新報社、2018年)、共編著に『反「大学改革」論――若手からの問題提起』(ナカニシヤ出版、2017年)がある(写真:古川雄嗣)

当時は全然勉強していなかったので、まったくの「なんちゃって」でお恥ずかしい限りですが、卒論だけはわりあい一生懸命勉強したので、その内容は今でもよく覚えています。「儒教から民主へ」というテーマで、近代になって、儒教思想がどういうふうに、西洋からやってきた民主思想に連続していったのかという問題を考えました。

大場さんも書かれているとおり、儒教というと、封建主義のイデオロギーであるというイメージが強いですよね。とくに日本ではそうで、儒教的なイデオロギーから脱却してこそ近代化を達成でき、民主主義を達成できるんだと言われてきました。しかし、大場さんは、いや、儒教の根本思想は「個の確立」なのだと書かれています。これはかなり挑戦的な主張だと受け取られるのではないかと思います。

しかし、私はこれは、決して奇異な見方ではないと思います。というのは、日本でも中国でも、西洋近代の民主思想に共鳴して、それを積極的に取り入れようとしたのは、だいたい儒者なんです。ということは、なにかしら共鳴する契機が、もともと儒教の中にあるはずなんですね。それが私の卒論のテーマでした。

考えてみると、そもそも儒教が漢帝国のイデオロギーになったのは、儒教が生まれてから500年以上後ですから、儒教が生まれた時代とは社会状況がまったく異なります。そして、儒教が生まれた春秋時代というのは、同時代のギリシアとよく似た都市国家の時代で、アテネのような民会が盛んに行われていたという研究もあります。

したがって、孔子が『論語』の中で「君子」と呼んでるのは、まさにその民会に参加して都市国家の統治に参加する人々、つまりギリシアでいう「市民」のことを指しているんです。孔子は「君子」という言葉を、「有徳な人」という意味と同時に、もともとの意味である「為政者」の意味でも使っています。ですから、『論語』という書物は、要するに「民会に参加して国を統治する諸君は、身を修めて、徳のある人にならなきゃいけないよ」ということを説いてるものなんです。

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