「日本の民主主義」は中国思想と深く関わっている 儒教の精神は「封建主義」ではなく「個の確立」だ

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中野:しかし、人材がいても失敗することもあります。たとえば趙の名将李牧の足を引っ張るやつや、後ろから鉄砲を撃つやつ、これも全部パターンが一緒で。後世から見ると、「こんなやつの言うことを王様が聞くからダメになったんだ」、なんて話ばっかりなんですよ。司馬遷の『史記』や『三国志』でもそうですが、人間は変わっていないとよくわかります。しかし、とくに興味深いのは、やはり「変法」つまり「改革」ですね。

大場:秦の改革が成功したことに関しては、秦の社会形態が特異で、中央の伝統から離れた遊牧部族に近いことが一因だと思います。つまり、基本的に家長の所有物としてすべてが扱われますので、部族長である秦王の命令が伝わりやすいという側面がありました。

なので商鞅が入ってきたときも、変法がやりやすいうえに、商鞅にやるだけやらせて、最後はスケープゴートにして殺しちゃって、出来上がったものは秦王がもらうというのが、やっぱりうまかったなと思います。

うまくいく変法は偶然にすぎないのか

佐藤:変法、つまり改革とは、ウイルスの変異みたいなものではないでしょうか。ウイルスはしばしば変異するものの、ほとんどすべてが生き残りに失敗する。ところが、ごく稀に、環境にうまく適応するものが出てきて、次の支配的な株になる。

ならば、なぜその変異株が生き残りに成功したのか。いろいろ説明はできるでしょうが、突き詰めると「複合的要因、および偶然の組み合わせ」という身も蓋もない話になるのではないか。

中野:そうすると、秦はろくに伝統もなかったから、変法しやすかったっていうことになる。伝統を守りましょう、という保守主義も怪しくなりますね(笑)。

佐藤:アメリカもそうでしょう。歴史のない人工国家なので、「変法すること」が伝統になった感があります。

大場:逆に考えてみると、なぜ東アジアで日本だけが近代化に成功したのか。

西洋、とくにアメリカからの影響を受け、それを国家としてうまく咀嚼し、統合する分厚い中間組織が日本にはあったんです。

一方で、中国を見ると、孫文が言ったように「すべての中国人は砂のよう」、つまり個々がばらばらで、皇帝の専制支配下でも統合力がなかった。そして朝鮮も官僚と庶民の格差が激しすぎて、社会組織が末端まで整備されていなかった。そういった状況では西洋からの影響を受け入れ、それを基に近代国家を構築するという土壌が日本とはまったく違っていたんですよ。

だから、日本の近代化の過程と、中国や朝鮮のそれぞれの社会・政治的な背景が、どう近代化の過程に影響を与えたのかを考えると、非常に興味深いと思います。

「令和の新教養」研究会
「れいわのしんきょうよう」けんきゅうかい

この複雑で不安定な世界を正しく理解するためには、状況を多面的に観察し、幅広く議論し、そして通俗観念を批判することで、確かな思想を鍛え上げなければなりません。内外で議論の最先端となっている書籍や論文を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論する研究会です。コアメンバーは中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家、作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)の各氏。

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