デイヴィッド・ボウイが予言した「宇宙生物」
中野:バーバラ・ウォルターが著書『アメリカは内戦に向かうのか』で、アメリカの政治がSNSのせいでおかしくなっていると書いていましたが、日本の政治も同じような感じかもしれない。陰謀説が流行るのも、SNSで情報があふれて人の処理能力を超えちゃっているから、簡単な答えに飛びついてしまう。
テレビや新聞も大概だけれど、SNSの影響はもっと深刻かもしれない。SNSという、認知資本主義のいちばん先鋭化した形態が来ちゃったなって感じがする。
佐藤:SNSというか、インターネットのヤバさを最初にずばり指摘したのは、私の知るかぎり、ロック・ミュージシャンのデイヴィッド・ボウイです。1999年の時点で、こんな趣旨の発言をしたんですよ。「ネットはただのツールだって? まさか。あれは宇宙生物だ。とうとう地球にたどりついたのさ! 興奮させられるが、恐ろしいことも起こる気がする。情報の送り手と受け手が一体化して共鳴したあげく、メディアに関する通念を完全に吹っ飛ばすだろう」。そして、実際にそうなった。
ネットはさしずめ、われわれの頭に接続できる巨大な外付けハードディスクです。20世紀末、人類は自分の脳を拡張する手段を手に入れた。ボウイ風に言えば、宇宙から飛来して地上を覆いつくした脳の化け物との共生が始まったのです。これが情報の検索速度と、処理速度をどんどん上げていった。
ところがこの宇宙脳、ひたすら効率に固執するうえ、自己と他者の境界が曖昧。誰の頭とも接続可能なのだから当然ですが、そうなると「他者と時間をかけて議論する」ことに意義を見出すはずもなく、「『合意形成など不要だ』と合意することが、最も効率的な意思決定の方法だ」という結論に達する。むろん、独裁と民主主義の区別もつけない。こうして自由民主主義は消滅し、世界の効率化が完成に向かう。