「倍速消費」並みになった合意形成のスピード感 政策が次々と「検討なく」決められている理由

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中野:ITの効果もあって、資本主義が加速して、何事も速くなっている感じがします。それは、自由主義や民主主義の本来のあり方、合意形成のプロセスのスピード感とは異なっている。現代のスピード感は、映画を見ていても感じるんです。

例えば、『2001年宇宙の旅』なんか見ると遅すぎるし、『スターウォーズ』の初期のエピソードと最新版を比べると、スピード感がまったく違います。私たちの生まれた頃と今では、スピード感が全然違っています。それが、自由主義や民主主義とのズレを生んでいるんですね。こんなに複雑な社会をスピード感だけでどうこうできるわけがない。でも、人間のスピード感覚は速くなっている。それでいて、寿命は長くなっていますからね。合意形成を急ぎすぎること、倍速で物事を消費するスピード感。これは、なんとなく文明的な問題と関係しているように感じますね。

意見をすり合わせる「ふり」だけする

佐藤:最近のハリウッド映画は、テンポが速いというより画面の情報量が多いんですよ。つまり加速したのは、スピード感ではなくボリューム感。現に上映時間は、全体に昔より長めです。

しかしそれはともかく、中野さんのおっしゃったことは「合意形成の放棄」と矛盾しません。「合意形成がなされた」という既成事実をとりあえず作る最も簡単な方法は、意見をすり合わせるふりだけして本当にはすり合わせない、つまり合意形成を放棄することだからです。

中野:なるほど。

佐藤:本当には議論などしないんだから、話が早い。その上で、誰も積極的には賛成していないかもしれないものの、なかなか正面切って反対はできない点だけ持ち出して、「これに関しては意見が一致しますよね?」とやる。民主主義な合意形成を急ぐあまり、自由主義的な議論を「過剰」と見なして投げ捨てたと言うこともできるでしょう。

中野:最初からやらないのがいちばん早いに決まってる。0秒だし(笑)。

佐藤:こう考えれば、われわれの主張は何も違わない。とはいえ2010年代でさえ、安倍総理は消費税の10%引き上げを2回延期した。ひきかえ、最近のこのスピード感は何なのか。「急がば回れ」ならぬ「急ぎすぎの空回り」です。

「令和の新教養」研究会
「れいわのしんきょうよう」けんきゅうかい

この複雑で不安定な世界を正しく理解するためには、状況を多面的に観察し、幅広く議論し、そして通俗観念を批判することで、確かな思想を鍛え上げなければなりません。内外で議論の最先端となっている書籍や論文を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論する研究会です。コアメンバーは中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家、作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校准教授)の各氏。

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