取材した専門商社に業績が著しく悪い営業マンがいました。入社12年目のDさん。取引先からのクレームも多く、職場内での信頼も高くはありませんでした。こうした部下に対して通常の上司なら「ダメ出し」をしてしまいがち。ところが上司のSさんは違っていました。Dさんの過去の仕事ぶりが社内で平均以上であったこと、また、前任の上司に聞いてみても評価が高いことを把握していたので、
と判断。そこで
「東京よりも関西のノリで仕事できる部署に適している」
と人事部にDさんの異動と配属先を直談判。ちなみにDさんは関西生まれで明るい性格だが、「許容力」「分析力」がやや低いタイプ。東京本社の堅苦しい雰囲気にのまれて、自分らしさを見失っていたようです。
これに対して人事部が動き、Dさんは関西の営業に異動。すると水を得た魚のように大活躍したというのです。ちなみに、今回の件で得したのは誰か? 移動したDさんよりも、うまく采配した上司のSさんのほうでしょう。
「Sさんには人を見る目がある」
と社内で評判に。人を見る目があると思われることは、「よい組織を作れる」資質を備えているのとイコールのようなもの。このように社内で認知される機会になったようです。
それだけが理由ではありませんが、その後、Sさんは部長に昇進。部下の適材適所を実行することがキャリアアップにつながったのです。
ならば、Sさんのように適材適所の推進を誰もがすればいい、と言いたくなるところですが、これがそう簡単なことではありません。現実の職場ではいくつもの障害が潜んでいます。
どうしたら適材適所な異動・配置が実現できるか?
異動・配置で「動く(異動する)」社員たちとは
・現部署を出て(out)
・新部署に入る(in)
わけですが、会社がそれを行う目的は大きく2つ。
そこで人事配置先で求められる「役割」とマッチした人材の異動であること。たとえば、新規事業開発の担当であれば発想力が必要。あるいは若手社員の多い部署であれば人材育成の能力を備えているべきでしょう。
加えて、配置先でかかわる関係者との「相性」がいい異動であるべき。上司のマネジメントスタイルや職場の雰囲気が合うことでモチベーションが高まり、成果が変わる人は少なくないからです。
こう考えると、適材適所の実現は簡単ではありません。それなりに前提条件をそろえる努力が必要なことがわかります。具体的には、人事異動を俯瞰してケアする立場の存在が必要です。
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