食べログ逆転勝訴の決め手「別ロジック」の波紋 独禁法の「精鋭弁護士」は戦い方をどう変えた?

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今回の判決が改めて示したのは、プラットフォーマーとその利用者との間にある「情報の非対称性」だ。

地裁判決後もしばらく非公開だった1審判決文を改めて精査すると、地裁は焼き肉店側が受けた不利益を「食べログ経由の来店人数等が減少していること」をもって「程度は大きい」と判定している。これだと独禁法が重要視する「合理的な範囲を超えた」かの検証は不十分ともいえ、「高裁で判決が覆ったのは独禁法上の解釈としては妥当」(田村教授)と捉えることもできる。

焼き肉店側が問題視する「エリアやジャンルが近い中で、評点の下がっていない競合店舗と比べた食べログ経由の客数の差」や「アルゴリズム変更全体による評点の変動のうち、チェーン店ディスカウントの影響はどれくらいだったのか」を、独自に立証する難易度は極めて高い。

食べログ側の河井弁護士は「1審判決ではアルゴリズムの修正によって大きな損害が出たらすべて賠償しろ、となってしまう。それでは現代のアルゴリズムによるビジネスは成り立たない。それを回避できたのが、高裁判決の大きな意義」と語る。

高すぎる「非対称性の壁」

原告側の闘志は消えていない。イム氏はチェーン店ディスカウントの対象になっているという食べログ上の「チェーン店一覧」には、焼き肉店「KINTAN」のような一部チェーンは掲載されておらず、評点も高評価が維持されていることを挙げ、「チェーン店の中にも二重の差別がある」と強調する。

これについてカカクコムは「現在お話できることは、1月19日のプレスリリースでお知らせしたとおり」と述べるにとどまっている。焼き肉店側は2月2日、最高裁判所に上告すると発表した。

情報の非対称性ゆえに立証できない不利益を、弱者は飲まざるをえないのか。焼き肉チェーンの韓流村が投げかける問いは、置き去りにされたままだ。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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金子 弘樹 東洋経済 記者

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かねこ ひろき / Hiroki Kaneko

横浜市出身で早稲田大学政治経済学部を卒業。2023年4月東洋経済新報社入社。現在は外食業界を担当。食品ロスや排出量取引など環境問題に関心。

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