太地町イルカ猟、「墨塗りは条例違反」判決の意義 売買文書の"全面非開示"は行政権限の濫用

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太地町畠尻湾でのイルカ追い込み猟(出所:LIA)

小型鯨類のイルカ猟で知られる和歌山県太地町。行政の主導により数十年にわたって続けられている、捕獲したイルカの売買に関する情報公開手続きをめぐり、公文書に記された情報のほとんどが「墨塗り」(非開示)とされたことを不服とした行政訴訟で、画期的な判決が出された。

和歌山地方裁判所は9月29日、原告であり、同町に居住する環境保護団体Life Investigation Agency(LIA)代表のヤブキレン氏の訴えを全面的に認め、被告であり、「太地町立くじらの博物館」を運営する太地町教育委員会に対して当該の公文書のほとんどについて開示決定を命じる判決を出した。

東洋経済オンラインでは、これまでにヤブキ氏によるイルカ猟の問題性に関する寄稿を2度にわたり掲載(2022年1月28日付および2022年12月13日付)。太地町におけるイルカ猟が、同町が主張する「伝統文化」とはほど遠いことや、太地町の行政自ら大規模に展開しているイルカの販売が、動物保護の観点から深刻な問題をはらんでいる実態について報じた。

今回の判決では、太地町の公文書開示条例などの趣旨を踏まえ、行政が主導するイルカの売買の実態に関して原告の「知る権利」が認められた。判決は、ヤブキ氏を行政に敵対する人物とみなして開示を拒んだ太地町教育委員会の対応には道理はないと断定。ヤブキ氏による開示請求は「『より一層公正で開かれた町政の実現に寄与する』という太地町の公文書開示条例の目的に整合するということができる」と、踏み込んで認定した。

墨塗り文書の枚数は300枚以上

原告弁護団の吉田京子弁護士によれば、ヤブキ氏が2021年9月1日付で太地町教育委員会に対して情報公開を求めた資料は以下の7つだ。

(1) イルカなど鯨類の購入にかかる請求書
(2) 収入金通知書(町の収入に関する記録)
(3) 輸出関係の資料(輸出承認の申請・添付資料一式)
(4) 鯨類販売に関する契約書
(5) 太地町立くじらの博物館で飼育されている、飼育動物の一覧表
(6) 同博物館での死体の処理に関する資料
(7)同博物館での飼育・検査記録

これら公文書の情報公開請求に対して、太地町教育委員会は該当する文書のほとんどについて、墨塗りの決定をした(次ページ写真)。原告側が墨塗りとされた文書の枚数を数えたところ、その枚数は322枚にも及んだという。そのことを理由にヤブキ氏は2022年4月22日付で和歌山地裁に非開示決定の取消などを求める行政訴訟を提起した。

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