太地町イルカ猟、「墨塗りは条例違反」判決の意義 売買文書の"全面非開示"は行政権限の濫用

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先述したように、原告による開示請求自体については、「町民の知る権利を尊重する」などとした太地町の公文書管理条例の目的(第1条)に「整合する」と言い切った。

原告が過去15年にわたる資料の開示を求めたことについて、被告の太地町教育委員会が膨大な資料の開示を求めるもので権利の濫用にほかならないと主張したのに対し、判決は「権利濫用を基礎づける事情とまでは言えない」として、その主張を一蹴した。

このような判決の内容について、情報公開制度に詳しい三木由希子・情報公開クリアリングハウス理事長は、「情報公開制度の趣旨を踏まえており、まっとうな内容だ」と評価する。

「そもそも情報公開手続きでは、非開示決定を行った行政機関の側にその法的根拠について立証する責任がある。本件判決を読む限り、それが立証されたとは言いがたい」(三木氏)。そのうえで「請求した人がどんな主張をしていたとしても、そのことを理由として対応に差を設けることはあってはならない」と三木氏は解説する。

情報公開は「ビジネスの闇」解明への第一歩

太地町立くじらの博物館をめぐって は、過去にも反捕鯨団体に所属する外国人の入館を拒否したことについて、慰謝料の支払いを命じる判決が出され、確定している。2016年3月25日付の和歌山地裁判決は「本件入館拒否は、原告の情報摂取行為を不当に制約するものである」と述べ、「精神的な損害が生じている」と判断し、慰謝料の支払い義務を認めている。

太地町で実施されているイルカ猟では、後方から大きな音を立ててイルカの群れを追い回し、パニック状態にさせて、入り江に追い込んで群れごと一網打尽にして捕獲するやり方が取られている。そうしたやり方は残酷だとして国際的な批判を招いている。

勝訴判決の旗出しをするヤブキレン氏(出所:LIA)

国際動物保護団体ドルフィン・プロジェクトおよびLIAの共同調査によれば、2022~2023年にかけての猟期に太地町では564頭のイルカが捕獲され、うち527頭がと殺されたという。他方、正確な数字は明らかになっていないが、「水族館などへの生きたイルカの販売が、販売額全体の約8割を占めている」(ヤブキ氏)という。

水族館でのイルカショーは、追い込み猟によって捕獲されたイルカを購入することで成り立っているという現実がある。

イルカ猟に関する情報公開は、そうした一連のイルカビジネスの裏側を解明する手掛かりとなるだけに、その動向から目が離せない。

なお、被告の代理人弁護士は東洋経済の取材協力要請に応じなかった。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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