敗戦国を再起不能にする「カルタゴ式平和」
『平和の経済的帰結』は、20世紀を代表する経済学者J.M.ケインズが、第1次世界大戦後に調印されたヴェルサイユ条約を弾劾する目的で書いた本である。この本によって、ケインズはジャーナリストとして世界的に名を知られるようになった。
このたび新訳が刊行されたので、本書を読むにあたってぜひ押さえておきたいポイントや背景知識について解説するとともに、改めて、21世紀の現代においてこの本を読む意味を考えてみたい。
まず、第1次世界大戦の幕引きにあたっては、戦後のドイツの処遇をめぐって、フランスによる「カルタゴ式平和」対アメリカの「ウィルソンの14か条」という対立構図があった(54頁)。
「カルタゴ式平和」とは、ポエニ戦争で勝利したローマが、敗北したカルタゴに厳しい賠償を課して国力を削ぎ、最終的に滅亡に追い込んだ歴史的事例にちなんで、敗戦国ドイツを再起不能にするような過酷な講和条件の押し付けを意味する。



















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