ドイツ「低迷の元凶」の悔恨なきメルケル回想録 脱原発に難民受け入れ、人道を貫いた理想主義者

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停滞する経済、政治の混迷…。揺れるドイツで2月23日の総選挙が近づく。16年もの間、首相の座にあり、当時は手腕を高く評価されたメルケル氏の初著作を読み解く。

736ページの大著を書き下ろした(写真:Leonie Asendorpf/picture alliance、GettyImages)

ドイツのアンゲラ・メルケル前首相(1954年生まれ、首相在任2005~2021年)が、昨年11月26日、回想録を出版した。30カ国以上に翻訳されて順次出版されることが決まっている。

ドイツ語の原書を取り寄せ、脱原発や難民受け入れなど、その後、メルケルの政策決定が負の遺産と評価されることが多くなった点を中心に読んだ。浮かび上がってきたのは、政治において人道主義やリベラルな価値を貫くことにこだわる、いかにもドイツ的な政治家の姿だった(敬称略。肩書は事象が起きた当時のもの)。

「日本でも事故を防げないのなら…」と脱原発

2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原発事故は、その後のドイツのエネルギー政策に大きな影響を与えた。それはメルケルが、日本の原発事故を理由に脱原発の道筋を確定したことが大きい。

福島第一原発が水素爆発を起こし、炉心溶融が明らかになって、ドイツ政権内にも衝撃が走ったが、ドイツに対する影響については、政権内でも対立があった。

自由民主党(FDP)のギド・ヴェスターヴェレ副首相兼外相は、日本とドイツははるかに離れており、日本の原発事故がドイツの原発政策に影響を与えることはない、という意見だった。しかし、メルケルは、大きな影響があるとするノルベルト・レトゲン環境相の意見に同意した。そして、前年秋にいったんは決定した原発の稼働延長を撤回するなど、原発政策を根本的に見直すことを決意した。

回想録では脱原発を決断した理由について、日本のような安全に対する要求や安全基準が極めて高い国で、地震や津波での原子力事故を防げないのならば、ドイツも安易にこのまま物事を進めるわけにはいかない、と書いている。

また、「社会的平和」を保つためには、自分の環境相時代(1994~1998年)に反原発運動との間で対立したような事態は避けたいと考えた、という。

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