ドイツ「低迷の元凶」の悔恨なきメルケル回想録 脱原発に難民受け入れ、人道を貫いた理想主義者

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ドイツの思想家マックス・ヴェーバーが述べているように、政治家に不可欠なのは、良いと思うことを実行する「心情倫理」よりも、結果を考えて実行する「責任倫理」である。難民受け入れは、その後のテロ事件の続発、右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」(AfD)台頭、そして政治的混乱をもたらしている。

メルケルは2016年12月19日にベルリンのクリスマス市で起きたテロ事件(全部で13人が死亡)について言及はしている。しかし、ドイツで難民申請をした人間がテロを行ったことは耐えがたいことであり、とりわけ難民支援に献身し、ドイツで本当に庇護を必要とする人々にとっては忌むべきことだ、と書いた後、こうした災いへの不安が我々を萎縮させないことが重要だ、と述べて、難民受け入れに前向きな姿勢を捨てようとはしない。

そこには、難民受け入れ政策がもたらした負の結果についての反省はない。

写真の扱いに映る各国政治家の好き嫌い

回想録全体を通じて、人物に対する好悪はかなり明確に感じることができる。

アメリカのドナルド・トランプ大統領に関する叙述では、2016年の米大統領選挙戦の最中、トランプ候補から、メルケルの難民政策はドイツを破壊した、などと批判されたことから、強い警戒感を持っていたことを明らかにし、ヒラリー・クリントン民主党候補が勝てばうれしかっただろう、と率直に書いている。

安倍晋三首相に関しても、3カ所触れただけで、安倍の政治理念とか人となりに踏み込んではおらず、実にそっけない言及である。

AfDについては1ページ半ほど言及があるが、具体的に名前を挙げて言及している同党の政治家はない。

口絵写真を見ると、トランプが映っているものはない。これに対してバラク・オバマ米大統領は6枚。安倍はハイリゲンダムサミット(2007年)で他の首脳と一緒に映った集合写真の1枚のみ。ロシアのウラジミール・プーチン大統領、習近平・中国国家主席はそれぞれ1枚ずつだが、プーチンは2国間会談、習はG20のときのものである。

人物の影響力の大きさで扱いを決めた面もあるだろうが、メルケルにとって、プーチン、習といった権威主義的政治家よりも、右派政治家に対する反感のほうが強いのではないかとすら疑ってしまう。

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