顔が溶ける病「水がん」患う少女に笑顔が戻った訳 17億人が苦しむ「顧みられない熱帯病」の正体

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過去3年にわたり、ナイジェリアの保健省とともにこの病気をNTDsのリストに加える活動を続けてきたMSFは、WHOの発表を歓迎する。それとともに、このリスト入りによって水がんの原因究明や、研究の促進、病気の啓発活動による死亡率の引き下げなどにつながる政策や、資金投入が今後拡大されることを希望している。

マラリアの次に死亡例が多いカラアザール

MSFは1989~2020年で約15万人のカラアザール患者を治療してきた。

カラアザールはサシチョウバエが媒介する寄生原虫で、特に貧困や紛争によって移動を強いられる人々の間や、栄養失調の人々、医療が十分に届かない地域にいる人々の間で感染が広がる。

感染すると、発熱や体重減少、肝臓・脾臓の肥大、貧血や免疫不全などの症状が見られ、適切な治療を受けなければ95%の確率で死に至る。HIV/エイズとの二重感染も問題になっており、毎年5万~9万件の新規感染が報告されている。

カラアザールは長年にわたる啓発・提言活動、製薬会社による診断ツールや治療薬の研究開発、資金拠出国による支援により、国家的な対策プログラムが拡大し、治療を受ける状況が飛躍的に改善した。

特に東南アジアではMSFから現地の当局が引き継いで活動できる程度にまで症例数が減少した。一方、アフリカの国々、特に紛争の影響下にある国ではまだMSFの診療は継続しており、さらなる研究開発やWHOの主導による対策が必要とされている。

MSFは過去30年以上にわたり、NTDs患者を治療してきた。現在はWHOによりロードマップが作成され、2030年までに「1つ以上のNTDsを100の国から撲滅し、NTDsにより医療を必要とする人の数を90%下げる」をターゲットに多くの政府、団体、企業、アカデミアが尽力している。

世界的な新型コロナの蔓延が落ち着いた今、遠い国で苦しむ人びとを「顧みる」社会になればと願う。

国境なき医師団 非営利の医療・人道援助団体

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こっきょうなきいしだん / Kokkyonaki ishidan

民間で非営利の医療・人道援助団体。紛争地や自然災害の被災地、貧困地域などで危機に瀕する人びとに、独立・中立・公平な立場で緊急医療援助を届けている。現在、世界約75の国と地域で、医師や看護師をはじめ4万9000人のスタッフが活動。1971年にフランスで設立、1992年には日本事務局が発足した。日本国内では、援助活動に参加する人材の採用・派遣、人道危機や医療ニーズを伝える証言・広報活動、現地医療活動を支える資金調達などを行っている(2022年実績)。

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