蔓延地域では脅威となる疾病でありながら、国際社会では製薬会社、政治からは顧みられなかった。さらに、新型コロナ感染症の流行拡大で、多くの国が自国の新型コロナ対策に予算を充てた結果、NTDs対策への資金が削減された。
例えば、NTDs対策に出資する数少ない国の1つイギリスは、2021年にNTDsへの出資を大幅に減らし、新型コロナや新興感染症への対応を優先した。これによりNTDs対策を進めてきた人びとは苦境に立たされた。
年間200万人が被害「ヘビ咬傷」
NTDsの中でもひときわ特殊で対策が難しいのが、ヘビ咬傷だ。
WHOによると年間約200万人以上が毒ヘビにかまれ、うち8万~13万人が亡くなる。また、その3倍近くが手足の切断など、深刻な後遺症を患う。アフリカ、アジア、南アメリカで多く発生し、女性や子ども、貧しい農村部の人々が被害に遭う。特に子どもは体が小さいため毒のまわりが早く、大人よりも深刻な結果になりやすい。
ヘビ咬傷は、適切な抗毒素で処置すれば死や後遺症を回避できるが、実際は多くの人が亡くなっている。
なぜならそれは抗毒素の値段が高いため、抗毒素を必要とする低・中所得国は高価な薬を買うことができないからだ。売り上げが伸びない製薬会社が、生産量を減らしたり製造を中止したりした結果、必要とされる地域に届かない事態となっている。
製薬会社で作られる質の高い抗毒素が手に入らない人々は、伝統的な治療に頼ったり、質の悪い抗毒素を使ったりして、さらなる健康被害を引き起こす悪循環に陥っている。
MSFは、アフリカのサハラ以南や中東の国々で、多くヘビ咬傷を治療している。
寝ているときに腕を毒ヘビにかまれた10歳の少女は、2つに切ったカエルを患部にあてたり、生卵と植物の種や葉を飲んで毒を外に吐き出したりするなど、伝統的な処置を受けたが効果がなく、叔父が背負って一晩歩き続け、MSFの病院にやってきた。
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