顔が溶ける病「水がん」患う少女に笑顔が戻った訳 17億人が苦しむ「顧みられない熱帯病」の正体

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受診時には意識がなく、治療の遅れから命が危ぶまれる深刻な状態に陥ったが、3回分の抗毒素を投与したところ、5日後に目を覚ました。かまれた腕の筋肉はひどく損傷していたが、19回にもわたる手術を行い、腕を切断せずに回復できた。

このような幸運もあるが、多くの人はヘビにかまれた後、適切な処置が受けられず、命を落としている。

ヘビに噛まれて手術を受けた少女
南スーダンの農村部で毒ヘビにかまれ、19回の手術を受けた10歳の少女(中央)と、彼女を担いで病院まで運んだ叔父(右)(©MSF)

十数年後に突然死をもたらす「シャーガス病」

シャーガス病は別名「沈黙の病」と呼ばれる。

クルーズトリパノソーマという寄生原虫が病原体で、サシガメという昆虫により媒介される。ほとんどの人が感染に気づかず、約30%の患者に心臓や食道、結腸などに損傷が表れ、5年~20年以内に突然死を引き起こす。

主に中南米で蔓延し、約700万人の患者がいると推測されるが、「人道援助コングレス東京2023」における吉岡浩太准教授(長崎大学)によると、日本にも約2000~4500人の患者がいると推計されている。

早い段階で治療すれば完治するが、比較的高度な血液検査のできる施設でなければ診断が難しい。輸血による血液感染や、母子感染も確認されており、世界で治療を受けているのは1%未満だ。

MSFはメキシコのシャーガス病が蔓延する地域で、プライマリーヘルスケア施設でシャーガス病の診断・治療を現地の保健当局とともに実施した。現地の医療機関の医療スタッフへの技術支援や、診断薬や心電図検査機器の寄付、地域コミュニティにおける啓発活動なども行った。

現在では、顧みられない病気の新薬開発を行う研究開発組織「DNDi」 が中心となり、日本の製薬会社も関わって、新しい診断薬や治療薬の開発に力を入れている。

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