「退避経路は断絶?」台湾有事シナリオの盲点 通信が途絶え、現地での機微情報の接収リスクも

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企業は通信が途絶えることを想定し、その場合には、現地で判断をさせるべく退避マニュアルは備え付けられているべきだろう。ただ、それが中国人社員を通じて当局に知られた場合、中国人社員の反発とともに、当局による圧力などのリスクが伴う。

となると、退避マニュアルは、それを運用する責任者とごく一部の日本人社員にのみ理解させ、有事の際にはそのメンバーが退避に向けた実働部隊となるような手法が想定される。そのような場合、責任者は日本人である必要があるが、そのような人事配置になっているだろうか。

そもそも、有事に突入すれば、社員の退避は極めて困難だ。まず、台湾は、周辺を海で囲われており、陸路で退避するすべがない。

現地に滞在せざるをえないケースも

2022年8月にペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した際、中国は大規模な軍事演習を行ったが、この時には韓国の主要航空会社であるアシアナ航空や大韓航空は運航を停止した。これが緊張状態ではなく、“有事”となれば、無期限で運航を停止するだろう。台湾有事となれば、ANAやJALは当然ながら、日本と台湾を結ぶ航空機の運航は停止となる。

すると、退避のタイミングを逸すれば現地に長期間滞在しなければならず、現地法人や関連施設において食料などの備蓄が十分確保できているか改めて確認すべきである。

さらに、台湾有事の際は偽情報が飛び交う。偽情報に惑わされず現地からの退避を完遂させために、一定の水準を超えるような軍事的緊張が高まった際に退避を実施する一足早い行動が必要だ。そのきめ細かな指針や退避を実行させるトリガーの設定は準備されておくべきである。

また、有事の際には現地駐在員だけ守ればいいというものではない。現地で雇用し自社のために尽くしてくれている従業員はどこの国であろうとその安全を確保しなければならない。

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